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吼える月
第25章 出現
だとしたら、選択肢を選べる舞台にも上がっていないことになる。
情でスンユが動くようには思えない。
あたし達ここで、海の藻屑になるの!?
サクと、サクと会えないまま!?
そんなのいやだ!!
スンユとギルが大声でシバの説得にあたっている。
シバは手持ち札の内容をさらすつもりはないらしい。
このままなら平行線。時間が無駄に流れるだけ。
どうすればいい?
サクの助けなくして、どうすれば餓鬼を消す玄武の力を……。
その時だった。
『今のうちだ、姫』
眠れるイタチがカッと目を見開き、ユウナの心に声を放ったのは。
『これより神獣の声を伝える依代(よりしろ)となれ』
「え?」
『声は不要。心で思え』
"わかったわ"
『それでよい。これより我の指示に動け』
"うふふ、私もサクみたいにイタ公ちゃんと心でお喋り…"
『スンユに悟られぬ前にはよ。よいか、これより深々と三度土下座するのだ。そして顔を上げて、目だけで真上を見て、呼吸を止めて十数えたら、両手をひらひらさせよ』
"はい?"
『はよ!!』
"わかったわ"
・
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そしてその場の者は、すべての動きを止めてぎょっとする。
銀髪の美しい姫が突然その場に崩れるようにして座り込んだと思うと、大きく頭を垂らして、綺麗な土下座をすること三回。
そして上げられた美しい顔にあるその目は、段々と白目を剥いていったのだ。
泣き止んだイルヒが恐怖に引き攣った表情を作り、口を開けたまま、凍り付いたように固まっている。
「お、おい……ユウナ!! 大丈夫……」
シバが心配して駆け寄り、不気味な顔を覗き込んだ途端、姫は不可解にも両手をひらひらと動かし始めた。
そして――。
「姫に憑きし我は……玄武なり!!」
ぜぇぜぇと荒い息と共に出て来た言葉。その棒読みの異様さに誰もが驚愕して仰け反ったが、スンユだけがその目を忌々しげに細めた。
「我玄武が汝らに宣託を下す!!
汝らすべて……海に出よ、えええええええ!!?」
宣託を下した姫が、疑問系の声を上げた後、咳払いをして続けた。
「我、水の神獣なり。水の中にて汝らを不浄のものより守護す!!」