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吼える月
第25章 出現
◇◇◇
"輝硬石"で作られたと思われる青く染まった壁と、回り込むように緩やかに下降し続ける青い廊。
まるで青い鏡のような変わり映えしない冴え冴えしい空間を、サクは緊張した面持ちでひたすら下に向かっていた。
やけに重く思える足は、これから行き着く未知なる世界に、緊張しているためだと思いながら、心奮わせこれからの事態に身構える。
蒼陵国を象徴する色は青だからとはいえ、青色がこうも輝く様は、忌まわしさや煌めく海を彷彿させるより、シバという存在を強くサクに想起させた。
儚げに消えるような淡い色彩なのに、どこにも染まらず凜としていて、自分はここに在ると自我を主張する――、そんなシバの色だと。
――青龍殿は海に浮かぶ屋敷ではなく、海の中にある屋敷なんだ。
「ねぇ、サクお兄さん…。本当にここ海の中なの?」
サクの肩に乗ったままのテオンが、不安げな声を出した。
「ああ」
サクは迷いなく断言する。
――奴らはきっとこの下で待っている。
「本当にこの下に、父様達はいるの?」
「いる」
「……きっぱりだよね。どこから来るの、その自信」
「勘だ。だから信じろ」
胡乱げな問いかけに返ったのは、端的でわかりやすいわりには説得力のない言葉だった。
それでもテオンは無理矢理納得したような、複雑そうな笑みを作る。
「……"だから"の使い方は凄くおかしいけれど、なんだろう…お兄さんの勘"だから"信じられるような…」
「これも人徳だな」
サクの顔が、嬉しそうな笑みを象る。
「それとも違う気がする…。勘ではなく、お兄さんがよく考えて出た結果といわれた方が、信憑性がないような…」
「……振り落として、先にこの下に滑り落とすか、テオン」
「い、いやそれはちょっと…」
そしてふたりは黙り込んだ。
ゴォォォォと、大きく鳴る音を耳にして。