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吼える月
第25章 出現
「テオン心配するな。こんな顔でジウ殿は寂しっ子なんだ。話し相手になってやらねぇと、泣いちまうからな」
「あはははは。こんな顔というのは余計だが、そう、泣いてしまいますな」
なにかを話そうという意志はあるのなら、まず同じ舞台にたたねば、なにも進まないと、サクはテオンに目で合図を送った。
瞳を揺らしたテオンは渋々とわかってくれたようだが、それでも負けじとジウに言う。
「ただ昔話をしたい奴が、相手を殴らないよ」
わざと嫌味で返せば、ジウは飄々と答える。
「教育熱心なハン殿に言われたのだ。"頭の悪い息子をしつけるためには、言葉ではなく一発殴ればそれでいい"。テオン様は頭がいいので殴る必要がない」
ちくしょう、あのクソ親父…と思いながら、そうやってしつけられて武神将となった今があるのを思えば、完全に恨めない複雑な胸中。
しかも他の武神将認定の頭の悪さってなんだと、密やかに傷つく。
「テオンが頭いいのは認める。が、俺は、あんたの息子じゃねぇんですが」
とりあえず、ジウに軽い八つ当たり。
「ははは、だから三発にした。それに私もこんなに優秀な馬鹿息子を育てた覚えはない。私の息子は顔も出来も悪くて、武闘大会で活躍されるサク殿の足元にも及ばない」
それを聞いて、サクの顔がすっと冷え込んだ。
「……いるだろ、ひとり。
あんたと……"光輝く女"との間に生まれた、出来がよすぎる息子が」
「……っ」
僅かに見えた動揺。
この様子を、姓は持たないと言い切りジウに憎悪を向けるシバに見せたら、どう反応するのだろうとサクは思った。