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吼える月
第25章 出現
かつては友好関係を築いていたはずなのに、今……、敵か味方か、互いに見分けるための戦いが始まろうとしているのだと、サクは悟っていた。
身体を動かす戦い方を好む武神将同士、共に会話での駆け引きは苦手だ。
そこに第三者である……駆け引き好きな饒舌な元武神将の主義に従って、不得意分野での戦いが始まろうとしているのは、サクには滑稽に思えたけれども、歓迎されている雰囲気ではないことだけははっきり感じている。
ジウが駆け引きの舞台に自分を引き揚げたのは、ジウにもまた自分に望む"なにか"があるのだろうと、サクは黙想する。
それがなにかが、事前にわからないのは悩ましい己の愚直さゆえだけれども、なにかがあるのだという漠然的な事柄を強みに思えば、今の立場は劣勢ではなく同格だ。負けが決まっているわけではない。
今まで武術的にもそれ以外でも迫力負けして、ハンのように共通の会話を長くできなかったジウを相手にするのが、武神将としての初仕事。
武神将の息子という立場だったら、不得手な相手と長く会話するひとすら重荷過ぎて、逃げようとしていたかも知れない。しかも実力で敵わないことも、武闘大会で実証してしまっている。
だが今は、昔の自分ではなく。かつての父と同じ立場なのだ。
ハンがここにいるのなら、ジウがどんな状況であったとしても、必ず味方にさせる。難関な局面を必ずやり抜けて、"最強"の名前を手にしたのだ。
だとしたら――。
その名を継ぐために。
そして父が自分達を託した相手ならば。
ユウナと自分の未来を守るために、シバ達との確執を消すために、なにがあってもジウを抱きかかえねばならない。たとえ力尽くとなっても。
期限は3日――。
だがその限られた短い時間をサクは憂うことなく、その眼差しに、ハンによく似た好戦的な光を宿すのだった。