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吼える月
第25章 出現
「"作穴須趍吉以避凶"!?」
テオンがあたりを見渡して叫んだ。
「土地の起伏が"龍"、凹んだ部分が"穴"、左右対称の家屋が"砂"、川が"水"…まさかここは、四神相応の…龍、穴、砂、水が揃った巒頭(らんとう)の地!?」
「さすがはテオン、そこまで俺は覚えちゃいねぇ。ただわかるのは、祭壇は最も神獣の力が引き出せる四神相応の土地に建てられるのが基本だということ。
つまりわざわざ移転した青龍殿は、土地的にありえねぇんだよ。もっと言えば、海に覆われすぎた今の蒼陵に、神獣を祀る祭壇は建てられない」
「え、だから…だからここを作ったの!?」
「それだけが目的とは思えねぇが、目的のひとつではあるだろう。海底でひっそりと人工的に作り出した"作穴須趍吉以避凶"、即ち"良い龍穴を用いれば、吉を呼び込み凶を避けることができる"というこの吉相の土地を使って、いったいなにをしようとしていたのか…」
サクはジウに言った。
「1年前――。水害があり、生き残った民が浮島に逃げ、青龍殿が移転し、あなたが変わったとされた。その直前にリュカが来ましたね」
ジウの呼吸が僅かに乱れている。
――サク。相手の綻びを見つけたら、本題を叩きつけろ。
「……ジウ殿、リュカがあなたにした話とはなんなのですか?」
――そうすれば相手の気概は崩れ、お前と闘おうとする戦意を失う。
「どうして、それまで蒼陵には普及されていなかった浮石というものが、水害時に頃合いを見計らったかのように突然に民に配られたのか……、それも一緒に教えて下さいよ」
暫しの沈黙。
やがてため息をついたジウは言った。
「……話は、あちらの……青龍殿にて」
ジウが指さした先――。
「テオン様、お父上もお待ちになられております」
そこには、青く染められた…煌びやかな屋敷があった。