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吼える月
第25章 出現
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この世で真実の色として作りやすいのは黒なのだと、サクは以前どこからか耳にしたことがあった。
黒を作るには、すべての色を混ぜればよい。多色を含んだ単一の色……、矛盾を秘めた黒色こそが、すべての色を強制的にひとつの意味に塗り替える、絶対的不変な真実性をもつ色なのだと。
神獣を祀る国には、象徴する色が決められてはいるが、濃淡あるものをひとくくりに青としてしまえる蒼陵において、真実の青とはどんな色なのかと思いながら、サクは目の前に近づいてくる高塀に連なる正門となる建物……蒼楼門の色を眺めた。
鏡のように光る輝硬石の煌めきを持った色は、玲瓏たる青――。
それは幻術が解けて、今し方降りてきたばかりの螺旋状に作られた廊や壁のものより、もっと深みがかって幽玄なる異彩に輝いていた。
それは神秘的ではあるのだが、黒陵で神獣を祀る玄武殿に慣れ親しんでいたサクにとっては、身体の芯までずっしりとくる荘厳さや神妙さが、今ひとつ足りなく思え、その理由として、輝硬石という不純物が混ざっているかも知れないと考えた。
覗けば海のように、果てなく広がるような漠々とした透明感を持ちながら、迂闊に触れれば鋭利な刃のように、即座に切られてしまう…そんな危殆さをも孕む、矛盾した多義性秘める色が、黒のような安定感を感じさせないのは、神獣を示す色合いが真実の色ではないからこそ。
物質的な強度を人工的に求めたことで、ひとの心理面には不安定さを与え、結果神獣の厳かさが失われるのは、なんとも皮肉な結果だとサクは密やかに思う。