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吼える月
第25章 出現
 

「よくねぇよ、お前は息子だろ!! 親を心配してなにが悪い!! お前は身体を張ってここまで、親父さんの安否を確かめに来たんだろうが。死にそうになりながらもここまで親父さんに会いに来たこと、その気持ちまでなかったことにするのか!!」


 サクの恫喝に場が静まり返った後、サクはジウに言った。


「俺を降ろして下さい。ようやく出会えた青龍の祠官の前に、黒陵を代表する玄武の武神将がこんなところから挨拶なんて、あまりにも不作法でしょうが。……警戒しなくてもいいですよ、俺元気なのは口だけですからね、不本意にも。祠官に敬意を示すためにどんな礼儀が正しいのか、それは青龍の祠官に仕える青龍の武神将であるジウ殿が、一番よくわかっているでしょう」


「ジウ」

「御意」


 祠官の許可を得て、ジウはサクが掴んだままのテオンの横に降ろした。

 いまだ力が入らぬその状態ながら、サクはよろよろと膝をつき、背筋を正すと、拳に開いた反対の手を添える武官の挨拶をする。

 
「お初にお目に掛かります、蒼陵国青龍の祠官。俺の名前はサク=シェンウ、父ハン=シェンウより黒陵国玄武の武神将の座を譲り受けし者」


 その構えにいつものような力強さはないにしても、祠官を詰るような強い語気とその眼差しは、ジウによって力を奪われたものとは思えない屈強さを秘めていた。


「この度ご子息テオン殿のご助力のおかげで、この愚生、ようやく代替わりのご挨拶に参上仕(つかまつ)れました。こんな若輩を手厚く歓迎して頂きましたこと、心より御礼申し上げます」

 それはサクの皮肉だった。


「もしもご子息を罰せられるというのなら、そのご子息を連れ回した愚生をまず罰し下さい」


 それにジウと祠官が息を詰めたのがわかった。




「……もしも倭陵の法に反し、他国の武神将を独断で罰することが出来るというのなら」


 にやりと笑ってサクは付け加える。

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