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吼える月
第25章 出現
「予言に言われていた赤き月の夜、黒陵は滅びました。祠官も、そして……」
サクは言葉を切ってから、淡々と言った。
「俺の親父も死にました」
「倭陵最強の…武神将が……」
途端に祠官の顔色が変わり、ふらついた。それをジウが支えると、祠官は息を整えるようにしてから、ジウに大丈夫だというように指を上げた。
ジウは前情報があったためか無表情だった。だがサクは、ハンが倒れた際のジウの素の反応を知っている。ジウだけではなく、このテオンの父親もまた、なぜ国滅んでハンが倒れたのか、その理由を知っている――。
"誰によって"と聞かないは、それに関連するものこそが、このふたりの"怖れ"なのだとサクは踏んだ。
つまりは、"光輝く者"が関係している――。
サクは、事前にジウと会っていたリュカを思い出していた。
「親父が死んだ理由を推し量られるあなた方からすれば、たとえ海底に潜った隠匿生活をしていても、恐らく警戒していた最悪の事態が、予想通りになっている現実に気づいたでしょう。即ち、滅ぼされた黒陵という事実こそが最大に懸念していたことで、蒼陵をそうしないために、あなた方は策を練り、海底都市に身を隠していた……違いますか?」
祠官は病的なまでに白い顔をサクに向けていた。
祠官もジウも否定しない。それを答えだとサクは進めた。
「だとしたら、万が一のことも想定しているはず。万が一、蒼陵が滅んだら……、そのためにテオン殿を逃がしたのでしょう? 青龍殿から」
僅かに祠官の目が動く。
テオンが呆けたようにサクを見ているが、サクは祠官のその反応だけで十分だった。
祠官はきっと――。
「その最悪の事態から生延びさせ、後の青龍の祠官とさせるために、テオン殿をここから追放して、なおかつ、蒼陵の現実を見聞させていたのでしょう?」