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あやかし姫の蜜事 ~巫女の夜伽は人ならざる者と~
第1章 蜜事・一 毛羽毛現の髪之助(はつのすけ)
『でも、お母さんはその髪の毛が何処にあるか知らないの。どう探しても見付からない……だからね、暦。もしその髪の毛を見付けたら、大切にしてあげてね。暦のご先祖様が覚悟を決めた、大切な大切な髪の毛なんだから』
『分かったよ、お母さん。でも、どうしてお母さんは御神体を探してるの?』
『神の御姿をこの目で見てみたいの。それだけよ』
――やっと、見付けた。
母が探していた、御神体。
「……見付けたよ、お母さん」
誰にも聞こえるはずのない、呟き。
暦は、母の願いが成就した事を喜ぶと同時に、一抹の不満を覚える。
母が見たがっていた念願の御神体は、その母が亡くなった後にこうして発見されたのだ。
長い間御神体と思われていた鏡は、あくまで隠れ蓑だった。鏡のすぐ傍にありながら、何故気付けなかったのか…………
「ごめんね、お母さん……」
謝罪の言葉は、誰に聞こえる事もなく宙に溶ける。
しかし、元々暦は前向きな性格。いつまでもくよくよしていても仕方がないと気を取り直し、せめて母の墓前に見せに行こうと決めた。
改めて、黒髪を見てみる。
その黒髪は、本当に大昔の人間が持ち主なのかと疑わせるほど、美しく艶やかな物だった。
間違いなく、暦の髪よりも質は上だろう。
暦はふと触れてみたくなり、手を伸ばして指先で髪を撫でた。
つるりとした感触が、指先から伝わってくる。
――その時だった。
「……やっと、逢えた……」
「!」
ふと、声が聞こえた。
客人の来訪の声ではない。
明らかに、暦の近くから発せられた声だった。
「……姫」
また、だ。
自分を呼んでいるような声に、暦は堂内を見渡した。しかし、人間と思われるその声の主の姿はない。
「……だ、誰?」
「……私は、今貴女が触れておられる髪です」
「か、髪っ? この髪が?」
驚きが混じった妙な声をあげ、暦は髪から手を離した。
よく見れば、綺麗に束ねられたその黒髪は、少しずつ伸びているようだった。
桐箱にきちんと収められていた髪は、箱から飛び出し、するすると長さを増していく。
「あ……あ……」
暦は床にへたりこんだまま、後ろへ後ずさる。
30cm程だった髪は、あっという間に1mを超え、2m程になるとぴたりと伸びなくなった。
「……姫、私は貴女にお会いしたかった」
何度目かの声を聞くと、声の主は男であると分かった。
『分かったよ、お母さん。でも、どうしてお母さんは御神体を探してるの?』
『神の御姿をこの目で見てみたいの。それだけよ』
――やっと、見付けた。
母が探していた、御神体。
「……見付けたよ、お母さん」
誰にも聞こえるはずのない、呟き。
暦は、母の願いが成就した事を喜ぶと同時に、一抹の不満を覚える。
母が見たがっていた念願の御神体は、その母が亡くなった後にこうして発見されたのだ。
長い間御神体と思われていた鏡は、あくまで隠れ蓑だった。鏡のすぐ傍にありながら、何故気付けなかったのか…………
「ごめんね、お母さん……」
謝罪の言葉は、誰に聞こえる事もなく宙に溶ける。
しかし、元々暦は前向きな性格。いつまでもくよくよしていても仕方がないと気を取り直し、せめて母の墓前に見せに行こうと決めた。
改めて、黒髪を見てみる。
その黒髪は、本当に大昔の人間が持ち主なのかと疑わせるほど、美しく艶やかな物だった。
間違いなく、暦の髪よりも質は上だろう。
暦はふと触れてみたくなり、手を伸ばして指先で髪を撫でた。
つるりとした感触が、指先から伝わってくる。
――その時だった。
「……やっと、逢えた……」
「!」
ふと、声が聞こえた。
客人の来訪の声ではない。
明らかに、暦の近くから発せられた声だった。
「……姫」
また、だ。
自分を呼んでいるような声に、暦は堂内を見渡した。しかし、人間と思われるその声の主の姿はない。
「……だ、誰?」
「……私は、今貴女が触れておられる髪です」
「か、髪っ? この髪が?」
驚きが混じった妙な声をあげ、暦は髪から手を離した。
よく見れば、綺麗に束ねられたその黒髪は、少しずつ伸びているようだった。
桐箱にきちんと収められていた髪は、箱から飛び出し、するすると長さを増していく。
「あ……あ……」
暦は床にへたりこんだまま、後ろへ後ずさる。
30cm程だった髪は、あっという間に1mを超え、2m程になるとぴたりと伸びなくなった。
「……姫、私は貴女にお会いしたかった」
何度目かの声を聞くと、声の主は男であると分かった。