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引き裂かれたroyaume
第6章 壊された記憶
「っ……」
拳ほどのサイズのある金属が、胸の谷間に近づいていく。
赤い表面を見ただけで血の気が引く。あの熱なら、拘束でもされない以上、生理的な拒絶を起こして身体は跳ね退く。
じゅっ、と肉の焼ける音がした。メイド達が悲鳴を上げた。
イルヴァは、俯いてオリアーヌの責め苦を受け入れていた。逃げられるだけの余力がないのか、リゼットに矛先が変わるのを危ぶんでか。
その指先が時折震えて、透明感あるソプラノが、痛々しい呻きに変わる。
「はぁっ、うぅ……」
きめこまやかな皮膚の上に、ヤーデルードの紋章が刻まれた。
「令嬢には想像を絶するものだったかしら……声も上がらないなんて。もう一つの焼きごては、あの労働階級同然の娘に代わらせても良いのよ?」
「大、丈夫……です……ああっ」
「イルヴァっ!!」
二つ目の鉄の塊が、あまりに柔らかな質感をした肩を狙った。
リゼットの、頭が痛くなるほどの悲鳴を上げたのを嘲笑ってでもいるように、髪を焦がした時より強烈な匂いが鼻を掠めた。
精巧なビスクドールも及ばなかろう、きめこまやかな真珠肌が、たった数秒で払拭不可能な色に染まっていた。
「リゼット」
「──…… 」
「お前に見せたいものがあるの」
いらっしゃい、と、オリアーヌが歩み寄ってくる。
リゼットは、硬直したまま、とても綺麗な色の血痕のこびりついた手を下ろした王を睨む。
「……貴女は、最低です」
「私の言うことが聞けない?さぁ」
「うっ……」
オリアーヌに腕を無理矢理掴まれて、身体ごと、ぐいっと引っ張られていく。
リゼットは、オリアーヌに引きずられるようにして、広間の出入り口へ向かう。
「お前達」
オリアーヌが扉の前に足を止めて、メイド達に振り向いた。
「そこにいる罪人を独房へ。医者を行かせて。その女、まだ利用価値がある。誰でも良いわ、自害なんてさせないよう見張っていなさい」
「──……」
「くれぐれも、服を着せる以外は触れないように」
「…………。イルヴァ……」
「行って。見張られなくても、リゼットを残してくたばれないから」
「──……」
リゼットは、イルヴァに微笑み返すか返すまいかを迷っている間に、今度こそ回廊に引きずり出された。