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引き裂かれたroyaume
第6章 壊された記憶
「貴女の手、私はずっと昔から知ってる。貴女の手も私を覚えてくれたんだって、あの朝、自惚れた。赤ん坊の頃、リゼットは、すごい強く握ってたよね……私の手。血の繋がったお姉さんだとでも思ってたのかな」
「何……の……」
「涙はあの人のためにとっておかなくちゃ。リゼットは、昨夜の傷、完璧に治して……あの人に見られて恥ずかしくないように」
「──……」
「リゼット。……今朝、邪魔が入って言えなかったけど、貴女は私の初恋の人。昔……幼心ながら、貴女の存在は、私にこの子だって思わせた。貴女がここに来てくれて、私は……、一番、何にも染まってなかった頃の自分に戻ったつもりになれてた」
「何のことか……分からないわ。さっきから、嬉しくない冗談ばっかり……ねぇ、……」
「リゼットは、もし、ここで生まれ育っていたとしたら、……陛下がちゃんとした振る舞いをして、私が好きだって言ってたら、どうしてた?」
「──……。それは、それで、……イルヴァには、気を許していたかも知れない」
「…………」
「でも、きっと、足りない何かに怯えていたわ。私には、東部も西部もおんなじくらい冷たい場所。でも、あの人が好き。あの人が側にいてくれたから、私は西部の人間になれた。味方だって、言ってくれたから……」
「リゼット……」
「もし陛下が優しくても、イルヴァが私に構ってくれても、きっと私はあの人を探す。……ごめんなさい。誰も信じられないくせに、側にいて欲しい人は、私の意思で……選んでしまうの」
ああ、自分は、オリアーヌ以上に狂った気性かも知れない。
リゼットは、イルヴァのくれる言葉さえ、無下にしている。
今、この瞬間でさえ、エメの敵(かたき)とも呼べる西部の人間のために叫んだり、泣いている自分自身を穢らわしがっている。
「ふふっ、それでこそ貴女だ」
「──……。……」
「かたちこだわっていたのは私。利害関係だの肩書きだの、そういうの振りきって、好きな人と肩を並べられてた貴女みたいになれないから。……リゼットは、いつまでもそのままでいて。何があっても、陛下に何を言われても、リゼットの思うように」
「分かってる、わ」
「陛下」
イルヴァの清冽な双眸が、二人分の烙印を抱えた主を見上げた。