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引き裂かれたroyaume
第6章 壊された記憶
「あ……こ、これ……」
「お姉様ってば、王のくせに抜けていらっしたわ。お前が成長して、必ずしも母親の娘時分と同じ背丈になるとは限らないのに。お前の好みが、お姉様の好みに一致するとは限らないのに」
「…………」
でも、と、オリアーヌが隣に進み寄ってきた。
所狭しと吊るしてあるドレスの一着に、おぞましい行為を繰り返してきた手が伸びる。
短い爪を飾った指が、愛おしそうに、レースを撫でた。
「見事な想像っぷりだこと。お前にピッタリな……お前がこの地に戻ってくることを確信していたような、……たった半年過ごしただけで、お姉様の勘は魔法だわ……」
「──……」
リゼットは、それまで聞かされてきた物心つく以前に関するどの話より、オリアーヌの話にしっくりするものを覚えていた。
暗い幼少時代を過ごした。青春は訓練に明け暮れた。ようやっとそれなりの地位に就いても、恋人の愛も信じられなくて、孤独な日々は終わらなかった。
だのに、胸の奥深くに、不思議とあたたかい記憶があった。感覚として残っているのだ。
優しい母親に優しい父親、姉はあの口数少ない人ではなくて、もっと優しくて、もっとたおやかな手をしていた。周りはとても賑やかだった。
父親が謀反で捕らえられたのは、リゼットが二歳の頃だという。だから、バシュレ家も、社交界と繋がりのあった頃は、そんなものだったのではないかとばかり思っていた。
違うのかも知れない。
リゼットはこの城でソフィルスと過ごして、東部の獄中にいる父親にも、不義の娘なりに慈しまれていたのか。
「お姉様は、お忍びで東部へ旅したことがあるの。年に一度、海外の旅行客に人気の祭りがあるでしょう。そこに紛れて……、お前みたいに、貴族らしからぬお転婆なところがあったから」
「その時、父と逢ったんですね」
「周りは大反対だった。王が東部の人間と、しかも妻子持ちと恋愛なんて。それでもお姉様は本気だった。お前を身籠って、お前の父親も、あの手この手でこの城を訪ねてくるようになって、私に……頭を下げたこともある」
「──……」
「お前が生まれて、お前の父親が旅行という口実で東部を離れてこの城に滞在していた頃、この城は楽園のようだった。けれど、お姉様は王たる人間。そしてお前は隠蔽されるべき、東部の血の混じった娘。……この城に置いておけなかった」