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引き裂かれたroyaume
第7章 *最終章*失われた希望と、──
この地の人間にしては色素の薄い髪の流れるこめかみに、ジルコニアのおしべとめしべのあしらっているマーガレットの髪留めを飾って、鏡台の前に足を留める。
絵本の中にまみえるような部屋の映った鏡の中に、ピンク色の巻き薔薇があちこちに咲いた淡いパステルブルーのドレスをまとった令嬢が、佇んでいた。
「…………」
リゼットは、手元に伏せてあったフォトフレームを表に向ける。
白い花のレリーフの枠に入っていたのは、リテスキュティージ西部の先代王、ソフィルス・ヤーデルードの微笑みだ。質素だが上等そうな生地で仕立ててあるドレスの袖にくるまれた腕に、生後まもなかろう赤子が大事そうに抱かれていた。
「…………」
ソフィルスは、妹とは似ても似つかない風采だ。
顔かたちの問題ではない。まとう気高さにぎらぎらしたものがなくて、そこには、聖母を彷彿とする言い知れぬ優しい色がある。
穏やかな目許はやはりこの地と人間らしく、きりりとした感じはあるが、それすら知性と品格を象徴していて、どこか愛らしい微笑みは、そのふっくらした唇は、きっと多くの家臣や民達に、平安をもたらす言葉を紡いだ。
「本当に、……私は、貴女の娘なの……?」
肯定も否定も望まない、未だ半信半疑の本心が、こぼれて消える。
「何で……私なんかのために、悲しんだの?愛してくれたの?貴女は、ここにいないの?私は貴女なんて知らない……この西部も、こんな部屋も、私には関係なかったものだわ」
昨日までの生き道を否定されて、唯一の、国籍というあの愛おしい人との繋がりを断たれた。納得いくはずがない。
リゼットの視界の中で、どれだけ呼びかけても答えを寄越してくれない、女性の面影が、滲んでいく。
「お母様……。貴女も、私のこと、何にも知らないでしょう。知らないのに、こんな部屋を遺して、ドレスだって、髪留めだって、やっぱり似合わなかったって、今、後悔してるでしょう。……」
不条理すぎる。この涙は、鼻の奥がつんと歪んだ心地がするのは、悔しいからだ。