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引き裂かれたroyaume
第7章 *最終章*失われた希望と、──
「私、お姫様だったのね。……貴女の妹には、労働階級の娘みたいに言われたわ。私も自覚はある。この西部では、お嬢様はおとなしく遊んで暮らしていなくてはならないんでしょう?……私は、お嬢様失格。それでも、馬子にも衣装……って、お世辞くらい言ってもらえるかしら」
リゼットは、ソフィルスの頬に指先を伸ばす。
フォトフレームのひんやりしたガラスの質感が、皮膚から伝わってきた。
「お母様……」
私ね、と、唇が自ずと綻ぶ。
「好きな人がいたの。愛する人。お母様みたいに、私も東部の人に惹かれて……とても幸せにしてもらっていたわ。あの戦がなければ、私がここに来なければ、きっと今でも、あの人は側にいさせてくれた。彼女は、私みたいな身分の娘でも、大事に想ってくれていたから、……いつかプロポーズするって言ってくれたのも、本気だったかも知れない」
そして、一生エメに守られて、こんな真実を知ることもなく、人並みに天寿を全うしたろう。たくさんの人に疎まれながら、ごくごくひと握りの愛に囲まれて、きっと世界一幸せになれた。
もう叶わない。
「エメに、見て欲しかったな」
でも、と、リゼットは鏡に映った自分から、また、ソフィルスに視線を戻す。
「私の好きな人は、こんな格好で戦場へ行ったら、きっと怒る。強くて気高くて、優しくて、生まれながらの貴族で、戦士なの。私は東部に住んでいた頃、私自身のために軍人になった。でも、エメに出逢って……一緒にいるようになってから、側にいて恥ずかしくない自分でありたくて……」
リゼットは、ジルコニアの輝くマーガレットに手を伸ばす。
そして、髪から外して、一枚のメモ書きを覗かせてあるバニティケースの側に置いた。
「有り難うございます。お母様……ソフィルス、ヤーデルード様」
リゼットは、鏡に背を向けて扉へ向かった。