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引き裂かれたroyaume
第7章 *最終章*失われた希望と、──
違う。違う、と、オリアーヌは拳を握る。
許せないのはメイドではない。あの姪だ。
オリアーヌにしてみれば、東部もシャンデルナもどうでも良い。ましてやエリシュタリヴ・オルレの隊長の首を捕ったところで、大した利益にならない。
ただ、リゼットを苦しませるためなら、どんな暴挙も躊躇わない。
オリアーヌの優しい姉を滅ぼして、オリアーヌ自身を悲しみの極限に追い込んだ。オリアーヌが焦がれるほど求めて、両腕を固く結んで守っても、儚くこぼれ抜けていった愛を、平気で奪った。
そして、あの娘以上に許せないのは、こんな風に王としてあるまじき激情を抑えられない自分自身だ。
「くっ……」
「陛下っ!!ひっ」
かーん、と、激しい金属音が立った。
メイドの足許に、たった今までキャビネットに乗っかっていた王冠が、転がっていた。
「陛下、おやめ下さい陛下!!」
オリアーヌは、鼓膜を突き破ってこんばかりの声を振りきって、クローゼットの側の額縁を外す。中に入っていた証書を引っ張り出して、左右を握ってシャンデリアの光に晒す。
「こんなものが……こんなものがあるから……っ」
十七年前までは、ここに、ソフィルスの名前が記してあった。今はオリアーヌの名前が記してあるこの用紙こそ、王冠同様、王の身分を証すものだ。
「いけません、陛下!!」
「お離しなさい。お前、無礼は控えると言ったばかりよ」
「わたくしの前でそのようなことをなさっても、わたくしには何も出来ません」
「──……」
「陛下が、これを破棄なさったところで、イルヴァ様と以前のようなご関係に戻られるための代償になることはございますまい。故郷の母が言っておりました。愛のための犠牲など、本人の自己満足を満たすだけだと。オリアーヌ様が王座を手離されても、貴女様が貴女様であらせられることに変わりません。それでも気が済まないと仰せなら、どうかご本人の前でなさって下さい」
「…………。お前は、私に指図をするのね」
「後継者の候補もいない今、この王城が空っぽになっては、それこそこの地に多くの血が流れます」
「──……」
オリアーヌはメイドの手を振り払って、額を戻す。