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引き裂かれたroyaume
第7章 *最終章*失われた希望と、──
鼻先が、男特有の匂いでいっぱいになる。不快な影に顔を覆われていく。
固定された顔を無我夢中で動かそうとしていた最中、鋭い銃声に鼓膜を打たれた。
「ぅわあああああああああ!!!」
「…──っ?!」
リゼットは、突然、目の前から消えた男の姿を追う。
足許に、男が腕を庇って苦しみ悶えて、転がっていた。
「おのれ、…──っ!!うぐぁっ……」
けたたましい銃声が続いていった。
リゼットの腕に自由が戻った。
隊員達が剣の鞘を抜く隙もない。皆、手首や脚から血を滲ませて、ばたばた地にくずおれていく。
「貴様は…──」
リゼットは、残った隊員達の瞠目した目の先を追う。
脳天を撃ち抜かれたかと思った。
むせ返るような血の匂いの煙たい空気のすぐ向こう、今や見馴れた西部の土地の眺めの中に、夢のひとひらが嵌め込んであった。
「あ……ああ……」
リゼットは、白馬に跨がるイレギュラーな軍人の姿を見た途端、まだ夢の中にいたのかと錯覚した。
ホワイトブロンドの短髪に、ほんのり翠を帯びた碧眼、その頬は白亜の如くきめこまやかでまばゆくて、鍛練された長身は、柔らかな線を備えていながら頼もしい。
その手に握ってある銃口から、的中率百パーセントを凌ぐ銃弾を放った余韻が、立ち昇っていた。
「エメ……」
「リゼット、乗れ!!」
「っ……」
身体がぐいっと抱き上げられて、宙に浮く。
リゼットは、伸びてきた隊員達の誰の腕にも捕まらないで、エメの背中に落ち着いた。
腕が、勝手にそのウエストに巻きついていく。
幻みたいに懐かしい声が、その白馬を促すと、周りの景色がスライドし出す。
「あっ、……」
ヤーデルードの城も、矢の準備を始めた軍人達も、あれよあれよと言う間に遠ざかっていく。
この体温を、雰囲気を、懐かしむ資格なんてない。リゼットは、エメに助けてもらえるような人間ではない。
こんな風に、寄り添って、同じ風を感じられる時がまた来ようとは、夢にも思っていなかった。諦めていた。
腕を弛めれば、エメから離れるのは容易い。
それなのに、リゼットは、エメに、強く強く掴まっていた。