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引き裂かれたroyaume
第7章 *最終章*失われた希望と、──

* * * * * * *

 今日は、頻りに軍隊を見かける。活気溢れる西部の町は、こんな日でも営業している店や商館が目立つ。ただし、路上に一般人の姿は少ない。

 リゼットは、まもなく潮風の気配を感じた。

 蹄の音が、やがて塗装されていない土を駆けるそれに変わる。流れていく景色に、建物より草木が多くを占めるようになっていく。

 磯が見えてきた。土地から海に繋がるそこは、低木や岩に囲われていて、静かな波の音と風のそれが二重奏を奏でていた。

 波打ち際で、エメがすとんと馬から降りた。

「リゼット」

「…………」

 目の前に、エメの片手が差し出されてきた。

 リゼットは、ともすれば姫君が貴公子のダンスの申し込みを受ける所作で、エメの手を取る。

 とろけんばかりに優しく、ゆっくり、身体が馬から下ろされていく。

 一ヶ月振りにまみえたかつての上官は、否、恋人と呼んでいた女性は、怖いくらいまばゆい。
 姿かたちが云々ではない。思い出や、まとうオーラが、その存在感を愛おしませてくるのでもない。
 リゼットにとって、ただ、エメは、天からの使いも色褪せよう人だ。

 二人、じっと対峙していた。互いに無言で見つめ合って、初恋心を伝え合えない少女よろしく、まとわりついてくる潮風の中に囚われていた。

「あ、あの……」

「ごめん」

「…………」

「ごめん、リゼット。……ごめん、………」

 両手がそっと握られた。

 そのやにわ、足許に、端然たる戦士がくずおれた。

 リゼットに、記憶の中で聞いていたより掠れたアルトが、狂おしいほど切実なトーンを寄越してくる。
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