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引き裂かれたroyaume
第7章 *最終章*失われた希望と、──
「エメ」
「ん?」
「傷、痛くない?」
「リゼットこそ」
「平気。もっと、血、絞っておいて欲しいくらい」
「──……」
リゼットの上体が、エメにすっと抱きすくめられる。
どちらのものか分からない、赤い赤い水溜まりに囲まれて、二人、薄らぐ気配のない月を見ていた。
少しの間、微睡んだ。
リゼットが次に目蓋を開けると、眩しいくらいの群青の空が、世界を照らそうとしていた。時刻は午前六時頃といったところか。
エメの寝息を傍らに感じて、心底、ほっとした。
頭がとてもふわふわしている。朝が苦手で、敵の城で生活していた時ですら、イルヴァに起こしてもらわなければ起きられなかったというのに、今朝は、気分が良い。
「ん……。リゼット?」
夢でしか耳に出来なかった優しいアルトが、あの、海の透明感を湛えた声が、とても間近から名前を呼んでくれている。
ああ、そうか。だから今朝は気分が良いのだ。
夢の中より現実にいてくれるこの人の側に、一秒でも早く戻ってきたくて、珍しく先に目が覚めたのだ。
リゼットは、ぼろぼろになったブラウスを整えることもしないで、ただただエメに寄り添っていた。
「エメ……ありがと……愛してる……」
大好きだ。こんなにも、こんなにも、孤独から救ってくれた人はいない。
否、救ってくれたのではない。
エメは、孤独な世界をも愛させてくれた。
リゼットは、エメがいたから、楽しかった。幸せだった。
世界は、今も冷たい。
それでも平気だ。遠くから、汽笛の音が聞こえる。どこへ連れて行かれても、この手さえしっかり握っていれば、きっとまた生きていて良いのだと自分を許せる。
「船が……見え……」
「リゼット!!」
リゼット、リゼット、と、エメの泣き叫ぶような悲鳴が聞こえる。
そんなに焦ることないのに。今また眠ってしまっても、次目覚めれば、また、たくさん好きだと伝え合えるのに。
リゼットは、組み繋いだエメの手を、ぎゅっと握った。