この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
引き裂かれたroyaume
第7章 *最終章*失われた希望と、──
* * * * * * *
「死因は致死量の出血。衣服の乱れからしても、争った形跡はなく、西部軍が駆けつけた時、既に息絶えていたそうです」
「そう。遺体は?」
「先に二人を発見した東部の軍に、引き渡されました」
「何てこと……」
「エメ・カントルーヴの身につけていた家紋のピアスが、片方なくなっていたようです。リゼットの身体を調べたところ、取りつけられていたとのこと。血で固まって、外れませんでした。……カントルーヴは、シャンデルナに代々仕える武家。いくらリゼットの遺体回収が目的とは言え、その家宝を剥奪しては、また東部に攻め入られます」
「──……。西部は、負けた。昨日リゼットを連れ去ったあの女が、よりによって我が国の主要兵達に重傷を負わせていったんですって。お陰で惨敗。幸いなのは、前回ほど大きな戦にならなくて、それだけ被害も抑えられたということ」
くすんだ庭園の広がる窓にかかったカーテンを閉ざす。
オリアーヌの視界の端で、イルヴァがメイドよろしく頭を下げた。
もっとも、その身なりは腐っても貴族の令嬢だ。とても今朝、地下牢から解放したばかりの人間とは思えない。
春らしい明るい色のドレスは素材も仕立ても一流だ。目も眩む輝きを湛えたブルーダイヤが、その首元で煌めいている。そして何より、イルヴァの端麗な顔かたち、こざっぱりしたドレスだからこそ引き立つ身体の線は、鬼も涙をこぼそうものだ。
一昨日まで、王の寵姫という身分をリゼットに隠させて、労働階級の女を気取らせていた。あの姿も家臣達の目を魅せるのには十分だったようだが、やはり、今の方がしっくりくる。
「もう良いわ。報告ご苦労様。身体、痛むでしょう。部屋に戻って休んでいなさい」
「誰の所為だと思ってんだよ」
「泣きたいなら、胸を貸すメイドを行かせるわ。下がっ──」
オリアーヌの腕がずきんと痛んだ。何かに耐えているような、たゆたう双眸が一瞬だけ目に触れてきて、背中が壁に叩きつけられた。