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引き裂かれたroyaume
第1章 引き裂かれた二人
「あたしを信じな、フロリナ」
「…──っ、……」
「封鎖されていた国境は、解放された。和睦は成立した。東部の人間が西部の様子を見に行くくらいで、どんな危険が及ぶのさ」
「だ、だって……」
結び目になった二人の手と手がするりとほどけて、下りていった。
リゼットを連れ戻そうとまでは思わない。あの気高い恋人の決心が実現させた、リテスキュティージの平和を、個人的な感情で打ち砕けるものではない。
エメは、それでもリゼットの無事な姿を確かめたい。
リゼットが、異国にも等しいかつての敵地でどんな風に待遇されているか。どんなに不安がっているかと思うと、いてもたってもいられない。
あの時、やはり離してはならなかったのだ。
あの人は、離れた場所で、生きている。
憶測は、所詮ただの憶測だ。
エメは、一日も経たない内に、たった一人の人を見捨てた過ちに気付いてしまった。
「フロリナ」
「お考えを……改めて。私なら、私ならお姉様を……」
「おやすみ、フロリナ。明日の朝ご飯は、君の好きな木苺のパンケーキを用意させておく」
「──……」
エメはフロリナの腕を引き寄せる。
シャンプーの名残の染みた柔らかな髪の匂いに、ひととき、包まれた。
1章 引き裂かれた二人─完─