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引き裂かれたroyaume
第2章 踏みにじられた想い
「あら、旅の方ですか?」
「はい、ちょっと」
「貴女がたは、何故、こんな裏道から?」
「馬車が足りなくて。……徒歩で来たら、途中でおばあさんに追いかけられました」
「まぁ、元気なご婦人。お気を付けになって下さい。西部の年寄りは、そんな人ばかりです。時代が変わっても、一度喧嘩した事実があれば、いつまでも恨み続けます。けれど、私は半世紀も生きていない。東部に個人的な恨みはありません」
女性の玲瓏たるかんばせが、愉快そうに綻んだ。
ブロンドの太い巻き毛に艶やかな煌めきを湛えた双眸、女性の佇まいはオペラ歌手でも聯想する華やかさがある。洋服も、庶民にしては派手な仕立てだ。年のほどは、見た感じ、三十代半ばといったところか。
「私は、ジュリー・ブラントと申します。宿にあてはありますの?」
「いいえ」
「良かったらお泊まりになって下さい。私に出来ることでしたら、お力添えさせていただけると思います」
エメの腕に、ジュリーの悩ましげな指先が伸びてきた。
刹那、撫でられていく感覚がした。だが、姉が妹にするように、すっと引かれただけだった。
「エメ様。お姉さんを味方に付ければ、あの方の情報も早く得られるかも知れません」
「……そう、だな。いざという時かくまってもらえるところは、ないよりあった方が良い」
「さぁどうぞ、まずはラウンジへ。旅のお疲れを癒やす当館自慢の紅茶をご用意いたします」