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引き裂かれたroyaume
第2章 踏みにじられた想い

「あの、じゃあ……」

 リゼットは、口に残ったピーチティーの弾ける香りを味わいながら、唇を動かす。

「イルヴァさんも、敬語、やめて下さい。……私のことは、その……」

「言ってる傍から、敬語、使ってるよ」

「えっ!あっ」

 リゼットは、たった今、自分の口から一文節を心の中で復唱して、両手で自分の口を覆った。

 イルヴァの挑発的な口許から、くすくす、優しい笑い声が立つ。

「……分かった。頑張る、わ」

「頑張ること?リゼットって、ほんとにこの間までバサバサ人間を斬ってたわけ?嘘っぽくなってきたんだけど」

「…………」

 リゼットは、エメと出逢った頃のことを思い出していた。

 二年前のあの頃も、エメに敬語をやめさせられた。リゼットは、この世の終わりを垣間見たほど身を狭くした。
 エリシュタリヴ・オルレのトップにため口を使って、そして、呼び捨てにする。
 新入りのリゼットにしてみれば、それはそれは過酷な試練だったものだ。

「リゼット」

 違う。呼んでくれるその声は、エメより女性的な音が強い。イルヴァの声は、春に咲く花をふんわり包む、そよ風を彷彿とする。

 イルヴァの片手が伸びてきた。

 リゼットは、いとも容易く肩を引き寄せられる。

 二人の濡れた双眸が、言葉に代わって交差する。

「──……」

「…………」

「あ、の……近いわ、……」

「うん、近付いてるから」

 リゼットは、イルヴァの悪びれない口振りに、はっとする。

 イルヴァの、ありえないほど優しい瞳に、まるでものを品定めしている如くの冷たい光がぎらついていた。
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