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引き裂かれたroyaume
第1章 引き裂かれた二人
「私は、西へ行ってもここにいても、どうせ大して変わらない。古くからシャンデルナに仕えていた武家の生まれの貴女とは違う。……没落貴族だと嘲笑されて、後ろ指を指されて、いつも泣いている母や姉の姿を見てきた。お父様の顔は知らない。私が物心つく前に、あの通り」
「そんなものは、あたしが君を諦める理由にならない」
「貴族達を見返したくて、エリシュタリヴ・オルレに入った。男というだけですいすい出世していく士官達が憎らしくて、負けたくなかった。箱入り娘には過酷すぎる訓練にも耐えた。エメは、家柄だけで今の地位に就いたわけじゃない。それは知ってる。でも私は貴女にとり入って右腕になったんだって、誰もが噂していたわ」
「気にしてたの?あたしがリゼットを愛してるのは事実だし、言わせておけば良いじゃないか」
「どんな手管で、カントルーヴ家の長女をたぶらかしたか」
リゼットは、自分の髪に伸びてきたエメの手を、振り払う。
「いやでも耳に入ってくるわ。私は何を言われても良い。噂話は口汚い貴族達の娯楽だもの。でも、……」
エメが人事に色事を持ち込んでいると誤解されていた事実は、耐え難かった。
リゼットの生家バシュレは、一族全員、社交界から弾かれていた。
リゼットは、貴族でありながら平民以上に日の当たる場所にいられなかった。士官学校を出るまでは、不安ばかりのつきまとう日々を送っていた。運良く部隊の王室付き部隊というエリートの集うエリシュタリヴ・オルレに入って、むさくるしいのは覚悟の上だったところで、エメに出逢った。
二人、恋人と呼び合う関係になるまでに、さして時間はかからなかった。
「迎えが来てる。母も姉も、私を止めなかった。貴女も、止めないで」
「──……」
リゼットは、現世というものに執着がなかった。
エメを補佐して、プライベートでは幸せな恋人同士として過ごせた日々だけが、かけがえない。
エメは、リゼットを没落貴族と嘲笑わなかった。細腕の箱入り娘と切り捨てなかった。
リゼットは、エメと一緒にいる間だけは、生きたくて、一分一秒でも長くこの世界にいたくて仕方なくなった。
この優しい人と添い遂げることを許されないなら、命を惜しむ理由はない。
「さよなら、エメ」
「…………」
リゼットは、短すぎるキスの後、今度こそ城の出口へ向かった。