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引き裂かれたroyaume
第2章 踏みにじられた想い
「身体、火照って花びらみたいな色になってる。こんなにだらしなく汁をこぼして、気持ち良くなかったなんて、そんな嘘はつくわけないよね?」
「ほどいて……違う、私は……」
「これがほんとの貴女の姿。綺麗で愛らしい、いやらしい身体は従順で、敏感。戦場なんかより女に囲われていた方が、貴女は幸せ。ほら、もっと、よく見て」
「……いやっ……いや……」
「貴女に、恋人なんていなかったんだ」
「違うっ、私にはあの人が──…うっ」
リゼットの頭が掴まれて、無理矢理、鏡に向かされる。
「あっ……はぁっ……」
「リゼットの初めてをもらったのは、私」
「ああっ……」
「どっかの国じゃ、初夜に花嫁の破瓜を証すものを見せびらかして、祝福を集める文化もある。それだけ大事なものを、リゼットは、恋人だって呼んでた人に、奪われてなかったんじゃん」
「違う……だって……だって、エメは……」
かたちなんて関係ない。姿なんて関係ない。
エメは、他の人間と明らかに違う髪の色をしたリゼットを、ただただ一人の人間として愛してくれた。とても優しく、とても強く、愛してくれた。
目に見えるものは必要ない。心に留める価値もない。
そんなものは、変わらない心を信じられない悲しい人間のすがる偶像だ。
リゼットとエメの関係に、女が書類に保証された配偶者に所有物同様扱われる文化に懐柔された人間に備わる類いの価値観は、必要なかった。
リゼットは、されどそんなものまで奪われてゆく。
もう会えない。この先たとえどんな奇跡が起きても、会える資格はどこにもない。
エメが少しでもリゼットを覚えていてくれたとする。あの高潔な魂が、この汚らわしい名前を思い出して今も呟いてくれているとする。
リゼットは、地獄に落ちても、どうして償えば許されるものか分からない。
2章 踏みにじられた想い─完─