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第3章 切り裂かれた純心

* * * * * * *

　リテキュスティージ西部の軍事組織の訓練は、ヤーデルードの城郭の一角を占める広場で行われる。

　リゼットが訓練に顔を出し始めたのは、一週間前、つまり城に入って三日目だ。ただし、訓練、日々の見回りを主とした職務ともに、特定の部隊に正式な配属が決まることはなかった。

　四月のある日の昼下がり、訓練場は、ほんのり甘く青臭い、穏やかな季節の匂いがたなびいていた。

　リゼットは、碧天から降り注いでくる柔らかな光とそよ風の中で、遠征軍の訓練に参加していた。

　今まさに、剣技の練習試合が進んでいた。

　リゼットが、目前で繰り広げられているトーナメントの準決勝戦を観ていると、斜め後方に第三者の気配がした。

「リゼット」

「イルヴァ……。何か用？」

　女はリゼットただ一人、このむさ苦しい訓練場で、親しいボディガードの登場は、さしずめ本物の春風だ。

「オリアーヌ陛下がお呼びになってる」

「分かったわ。急ぎなの？私、決勝戦が残っているの」

　リゼットは記録係の携えているホワイトボードを瞥見する。

　トーナメントの記録表は、リゼットと、今斬り結んでいる軍人達を除けば、全ての名前がバツ印で消されてあった。

「またリゼット残ってたんだ。安定の強さじゃん」

「どうかしら」

「女には簡単に組み敷かれるのに、男には容赦ないなんて」

「っ……、それは……」

　リゼットは、肩に伸びてきたイルヴァの腕を、払いのける。

「イルヴァは？」

「私？」

「オリアーヌ陛下の護衛だったくらいだもの。貴女だって、殿方に限らず、女性でも容赦はないんでしょう？」

「──……。そういうことに、しておいて」

「…………」

　結局、練習試合のトーナメントの決勝戦は、辞退した。

　リゼットは、あの夜から何度も足を運んでいる城の中枢、王の住まいを訪ねていった。