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引き裂かれたroyaume
第3章 切り裂かれた純心

* * * * * * *

 ジュリーの切り盛りしている宿は、海外から訪ねてくる旅行客が多くを占めていた。それと同時に、かつてはリテスキュティージ西部にいる一部の貴族達の間でも、重宝されていたという。

 エメは、西部の貴族の宿泊している客室にいた。

 豪華絢爛な一人部屋の寝台に、女性が一人、寝転がっていた。

 女性は、裸体をしどけなくシーツにくるんで、腕を投げ出していた。ブロンドの巻き毛に翠がかった青い双眸、きりりとした顔つきの、いかにも西部の人間らしい風貌だ。

 エメは女性に背を向けて、情事の名残のまとわりついた片手を拭ったティッシュを放った。

 ダストボックスに、艶かしい匂いをまとった湿ったものが、ふわっと落ちた。

「……おやすみなさい」

「待って」

 エメがドアに手をかけた瞬間、後方から、さっきまで甘ったるく喘いでいた声が追いかけてきた。

 振り向くと、女性が上体を起こしていた。

「貴女、素敵だわ。東部の貴族にしておくのがもったいないほど」

「それはどうも」

「今夜は一人で眠りたくない」

「あたしはこれから私用があるので失礼します」

「淡白ね。貴女にいざなわれたこの汗も、まだ顫えてる……ここも。貴女がこんなにしたというのに。あんなに激しく鳴かせてくれて、私は、こんなに濡れたの久々」

 女性の肉感的な身体がもぞっと動いて、白熱灯の光を吸った二本の脚の内側が、こすれ合う。

「寄り添って眠ってくれるだけで構わない。延滞料なら何倍でも」

「連れが待ってます。あいつにこのことを覚られないよう、店主に言いつけられています」

「どうせ部下でしょ。適当な理由をつけて頷かせていれば良いのよ。この宿は、以前はこの土地の上流家庭の娘が働くような場所だった。やはり私達貴族専用の慰みものに」

「需要はあの戦でめっきり減って、今は指折り数える程度の裏サービスになりましたけど」

「その指折り数える程度の客、全て貴女が相手をしている。……ジュリーにどんな弱味を握られたの?エメは、貴族だけれどただの貴族じゃない感じだわ。謎めいた貴女の魅力の秘密を、手をとりながらゆっくり聞かせてもらいたい」

「失礼します。ごゆっくり」

 エメは、今度こそ女性の声を振りきって、廊下に出ると扉を閉めた。
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