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引き裂かれたroyaume
第3章 切り裂かれた純心
「──……」
イルヴァは、女の泣き声にノックを重ねて、今度こそ重たい扉を開いた。
レースの天幕の下りた天蓋ベッドに敷かれたシーツは、いかにも人間一人が眠っていよう膨らみがあった。そしてオリアーヌの姿は、背の低いテーブルの側に携えてあるソファにあった。
イルヴァが物心ついた頃から知っている、自由奔放で聡明な主の手に、一枚の写真が握ってあった。
「失礼します」
「──……」
オリアーヌが顔を上げてきた。
いつも強烈な眼力を放つ双眸は、やはり赤い。
「リゼットを迎えに来ました」
「眠っているわ」
「では、……」
イルヴァはオリアーヌの脇をすり抜けて、寝台へ進み寄る。
リゼットは、最低限の筋肉だけを備えた身体をしている。鍛え抜かれた軍人でも、抱き上げて、この王宮から二人で暮らす離宮に連れ帰るくらい、容易い重みだ。
「お待ち」
イルヴァはリゼットをくるんでいたシーツから、片手を下ろした。
振り向くと、イルヴァの前に、オリアーヌが立っていた。その腕に、ふわふわした布の塊が抱えてある。
「寝間着と下着。リゼットは大事な戦勝の証。私の許可したところでなければ、みっともない格好はさせられません」
「それだけですか?」
「──……。どういう意味?」
「言葉の通りです。リゼットは、城のがらくた置き場に破棄されていたことになっている、このような寝間着やドレスを訝しんでおります。身体を隠す必要があるなら、私が、彼女の部屋から持ってきます」
「……意地悪」
「貴女に、恨めしがられる謂れはありません」
「…………」
イルヴァは、オリアーヌから着替えを受け取る。
しゃらりとした艶を帯びた布に隠れて、ほんの刹那、二人の指先が触れ合った。
「来週のベネシー共和国への進攻、聞いているわね?リゼットは、現地では作戦の補佐をさせるわ。貴女は引き続き彼女のガードを」
「分かりました。……あの、……」
「お姉様の十七回忌なら、気にしないで」
「私には関係のないことでしたね」
イルヴァは手早くリゼットに下着とネグリジェを着せて、抱え上げる。
オリアーヌに一礼して扉へ向かうと、後方から追ってきた彼女の片手が、半分開いていた出入り口を開けてくれた。