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引き裂かれたroyaume
第3章 切り裂かれた純心
リゼットは浅い眠りから目覚めると、見慣れた私室の寝台にいた。
やはり身に覚えのないネグリジェにくるまれた自分の身体を見下ろして、それから部屋を見回す。
ほんのり青い光の滲んだ窓の側に、イルヴァの姿があった。
「おはよ」
イルヴァが振り向いてきた。
穏やかな碧翠の瞳が際立つ儚げな顔立ち、シャープな頬に、肩に触れる長さのブロンドの髪の影がほんのり被さっていた。
その雰囲気は、やはり高貴なたおやかさがある。
「おはよう。…………」
リゼットは、押し寄せてくる激情を圧し殺して、この美しい付き人から目を逸らす。
全霊にまとわりつく憤怒の焔に、いっそ焼かれて消えてしまいたい。
屈辱だった。昨夜の宴は、リゼットをおとしめるためだけに開かれたのではないかと疑るほど、それは非道なガーデンパーティーだった。いやというほど東部の敗北を身に染みさせられた。
「っ……」
「──……」
リゼットの、シーツを握った片手の甲に、イルヴァの片手が被さってきた。
華奢な腕が肩に絡みついてきて、憎らしくなるほど優しく、優しく、簡素なシャツに覆われた胸に抱き寄せられる。
「離して。……もう少し眠りたいの」
「離さない」
「それなら、さっさと思うようにして」
「今、してる」
「──……」
「リゼットを、私のしたいようにしてる。今はこうしてたい。もう少し、このままで」
「…………」
一つになった二つの影が、シーツに崩れ落ちていく。
リゼットは、イルヴァと二人、横たわって見つめ合って、手と手を絡める。
信じられないくらい優しい朝は、残酷だ。息の根も止まるほど傷つけて欲しい時に限って、優しさなどいらない時に限って、罪悪感だけを抉ってくる。
リゼットは、得体の知れない懐かしさに包まれて、深い眠りに落ちていった。
3章 切り裂かれた純心─完─