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引き裂かれたroyaume
第4章 霞んでいく過去(前)
* * * * * * *
卯月最後の週明け、リテスキュティージ西部の遠征軍は、ベネシー共和国を目指して出国した。およそ三時間半の船旅の末、辿り着いたのは、黒い髪に白い肌を備える民族達の暮らしている豊潤な土地だ。
リゼットは、進撃部隊が出撃していくと、イルヴァと残った隊員達と一緒に、天幕を張った。
神の木は、本当に、存在していた。相当の年輪を重ねていよう太い幹に、模様編みされた紐が巻きつけてあって、神聖な空気がそこはかとなくたなびいていた。
「リゼット」
リゼットが振り向くと、イルヴァが、カップに入ったハーブティーを差し出してくれていた。
「有り難う」
リゼットは、熱々のカップを受け取る。
イルヴァが隣に座ってきた。
リゼットは、ハーブティーの水面に息を吹きかける。
「船酔い?」
「何で?」
「顔色悪い。ってか、朝から?」
「──……」
リゼットの額に、イルヴァの手のひらが被さってきた。
「うーん……熱は、ないか」
「──……。あの、……」
「早く、日、暮れないかな」
「寝不足?」
「ううん」
「…………」
「リゼットと二人きりになりたくて。最近、ろくに休みがもらえなくって、デートもしてなかったじゃない?」
「……そうね。私は、ゆっくり、休みたいわ」
カモミールの匂いが上った優しいクリアグリーンの水面に、ふっと、影が落ちてきた。
「おい」
顔を上げると、隊員の一人が仁王立ちで真ん前にいた。
屡々、訓練場で見かけていた青年だ。
リゼットの足許に、からんからん、と、金属音が転がった。青年が剣を放ってきたのだ。