この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
引き裂かれたroyaume
第4章 霞んでいく過去(前)
「無礼じゃない?」
「申し訳ありません。イルヴァ様は、少々、お黙りになって下さい」
「私に用ですか?」
リゼットは剣から顔を上げて、今一度、青年を見上げた。
「俺と手合わせしてもらおうか」
「……何のために?」
「貴様の器量を確かめてやるためだ。ぽっと出の貴族の女が、しかも東部の出身が、いきなり作戦担当だと? 向こうで何様だったか知らないが、この人選、理由が明確でなければ納得しない」
「私の実力を試したいの?」
「さぁ、立て」
「あんたさ」
リゼットは、イルヴァに肩を押さえられた。
奥二重の目許に煌めく双眸が、青年のぎらつく碧眼を、ねめつけていた。
「敵の陣地で味方同士が戦って、どうするわけ?この件は陛下に報告します」
「うっ……。イルヴァ様、その女は、陛下と……」
「気に入られる人間には、それなりの理由がある。あんたもオリアーヌ様に気に入られたければ、こんなくだらないことの出来る暇を使って、努力すれば」
「イルヴァ」
リゼットはカップを傍らに置いて、剣を拾った。
立ち上がって、青年に進み寄る。
「納得されないのは分かるわ。訓練だと思って、この話、受ける」
「何言ってんの、リゼット?」
「身体が……、鈍っていないか、確かめたいの。やらせて」
「──……」
歩く度に、否、脚を動かす度に、南京錠の重みに責められる。そして、陰核から鎖で繋がった、乳首のピアスが揺さぶられる。
不快な刺激に伴って、昨夜のおぞましい記憶が、感覚を伴って押し寄せてくる。
リゼットは、いざという時、こんな状態で戦えるか確かめたい。
そして、今や努力を重ねて得てきた力を保つ他に、エメと過ごした日々が現実だったと信じられる術がない。
「物分かりの良い貴族様だ」
「──……」
「いくぞ!とぅああああ……っ」
青年の白刃が襲いかかってきた。
小気味良い金属音が、晴天の下、爽やかに折り重なっていく。