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引き裂かれたroyaume
第4章 霞んでいく過去(前)

「無礼じゃない?」

「申し訳ありません。イルヴァ様は、少々、お黙りになって下さい」

「私に用ですか?」

 リゼットは剣から顔を上げて、今一度、青年を見上げた。

「俺と手合わせしてもらおうか」

「……何のために?」

「貴様の器量を確かめてやるためだ。ぽっと出の貴族の女が、しかも東部の出身が、いきなり作戦担当だと? 向こうで何様だったか知らないが、この人選、理由が明確でなければ納得しない」

「私の実力を試したいの?」

「さぁ、立て」

「あんたさ」

 リゼットは、イルヴァに肩を押さえられた。

 奥二重の目許に煌めく双眸が、青年のぎらつく碧眼を、ねめつけていた。

「敵の陣地で味方同士が戦って、どうするわけ?この件は陛下に報告します」

「うっ……。イルヴァ様、その女は、陛下と……」

「気に入られる人間には、それなりの理由がある。あんたもオリアーヌ様に気に入られたければ、こんなくだらないことの出来る暇を使って、努力すれば」

「イルヴァ」

 リゼットはカップを傍らに置いて、剣を拾った。

 立ち上がって、青年に進み寄る。

「納得されないのは分かるわ。訓練だと思って、この話、受ける」

「何言ってんの、リゼット?」

「身体が……、鈍っていないか、確かめたいの。やらせて」

「──……」

 歩く度に、否、脚を動かす度に、南京錠の重みに責められる。そして、陰核から鎖で繋がった、乳首のピアスが揺さぶられる。
 不快な刺激に伴って、昨夜のおぞましい記憶が、感覚を伴って押し寄せてくる。

 リゼットは、いざという時、こんな状態で戦えるか確かめたい。

 そして、今や努力を重ねて得てきた力を保つ他に、エメと過ごした日々が現実だったと信じられる術がない。

「物分かりの良い貴族様だ」

「──……」

「いくぞ!とぅああああ……っ」

 青年の白刃が襲いかかってきた。

 小気味良い金属音が、晴天の下、爽やかに折り重なっていく。
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