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引き裂かれたroyaume
第4章 霞んでいく過去(前)
* * * * * * *
エメはタパニと連れたって、町のカフェでランチをしていた。
ここ数日、西部は、ベネシー共和国侵攻の話題で持ちきりだ。そして今日は、ヤーデルードの先代の王、ソフィルス・ヤーデルードの十七回忌で、町全体が湿っぽい。
「エメ様」
エメが小さくなった氷の浮かんだグラスをとりとめなくかき混ぜていると、タパニが走り込んできた。その手に、さっき席を外していった時はなかった新聞が握ってあった。
「やはり、遠征軍にリゼット様が加わられておいでだそうです」
「だろうな。ヤーデルードがリゼットを欲しがった表向きの目的は、それだったし」
「我々の休暇は残り二日。一端、東部へ戻りましょう」
タパニが新聞をテーブルに置いて、向かい側に腰かけた。
エメは、皺の入った新聞を広げた。
あれだけ近くにいたリゼットが、今や、こんなところで名前を見かけるくらいしか出来ない。
これだけ遠くにいるのに、思い出は、かなしいほど鮮やかだ。あのぬくもりが、雰囲気が、こまやかな魂の映し出す表情が、五感に蘇ってくる。
「……東部は、当分、どこともやり合うことはないかな」
「今は復興でいっぱいですから。それに元々、シャンデルナ王家は、戦をお好みではありません」
「エリシュタリヴ・オルレをあたしが抜けても、問題ない……か」
「はっ?!」
「落ち着け。カントルーヴ家の人間としてあるまじきことを言っている自覚はある。お父様には、弟とあたししか跡継ぎがいなかった。妹は幸せな家庭を夢見ていたし、実際、リゼットが入隊してきた春、貴族と結婚して、今じゃ一人前の伯爵夫人だ。そして弟は、あの通り戦士としての器量に欠けている」
「エリシュタリヴ・オルレはほぼ貴族の集まりですが、入隊において、あくまで血筋は参考程度に見られるだけですからね。かくいう私は、金で称号を買った貴族の次男です」
「そういう部下を持って助かることもある。町を歩き慣れているし、素朴な服を借りられる」
「──……」