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引き裂かれたroyaume
第4章 霞んでいく過去(前)
* * * * * * *
初日の交戦が終わった。進撃部隊の話によると、戦況はまずまずといったところらしい。
リゼットは、大樹の近くの天幕にこもって、イルヴァと枕を並べて向き合っていた。
「……身体、大丈夫?」
「大丈夫じゃないと答えても、貴女はヤーデルードの忠臣。私の望んでいる通りにしてくれないでしょ」
「さぁ。死にそうだから助けてくれって、私にキスして泣きついてくれたら、考えるかも」
「──……」
「リゼットが、すごいって、今日今更だけど思った」
「…………。そうね。貴女の期待以上のマゾヒストかも知れないわ。……きゃっ」
「真剣な話をしてるんだけど」
リゼットは、イルヴァに右手首を引かれて、そして彼女と鼻先が触れ合う寸前になった。
さっと、顔を逸らせた。
「昼間の野郎。普通に負けたって勘違いしていたよ。リゼットの方がハンディあったのにね。それなのに、ちょっと動きは危なっかしかっただけで、本調子だった」
「……あのような人に負けていたら、私が陛下のお気に入りだから重宝されているんだって、きっと言いふらされていたもの」
「それだけで勝てるものじゃないよ」
「東部にいた頃から、中傷の対処は心得ていたの。私が居場所を保てる術は、戦う他になかった。強くなくては軽んじられる。謀反人の父を持って、お母様とお姉様からは、昔から家族ではないみたいな目を向けられてきた。私には、軍人として、一人前以上を目指す他になかった」
「お父様が何をされたか、知ってるの?」
「耳に入るのは噂話ばかりで、どれを信じるべきか分からなかった」
「──……」
ただ、物心つかなかった頃、もっととてもあたたかな愛情に満たされていた記憶はある。あれは父のくれたものだったかも知れない。だが、姉も、もっと優しかった気がする。母も、もっと、良い香りのする高貴な女神の如く女性だったのではないか。
人間の世は、壊れやすいもので出来ている。
あの頃の、記憶ともつかない夢の如く感覚に染みついたものも、きっと知らない内に壊れ去ったのだ。