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引き裂かれたroyaume
第4章 霞んでいく過去(前)
「イルヴァは?」
「私?」
「あんまり話してくれないもの。貴女のこと」
「…………」
「貴族でしょ?しかも、旧家の」
「どうしてそう思うの?」
「何となく」
「正解」
イルヴァの軽らかなソプラノが、淡々とした音色を帯びた。
「親はどっちも筋金入りの貴族で、見栄と贅沢を愛していた。底の尽きないはずの財産を、ありったけ使い込んで、それでも足りなかったらしくて、オリアーヌ陛下に頭を下げて、貴族らしい生活を続けたんだって」
「……似てないのね、親子」
「私が宮殿に仕えるようになったのは、オリアーヌ陛下に恩義を返したかったから。屋敷もお金も、どうせ返しきれないけど、陛下は気持ちだけで十分だって。西部じゃ、貴族に労働はご法度。昔は変わった目で見られてたな。でも親には感謝してる。私は貴族の令嬢って柄じゃないし、リゼットみたく良い女の世話係になれた」
「──……」
「つまんないでしょ。私、そういうことしか話せることなかったから」
「…………。オリアーヌ陛下って……、西部の人には、正当に振る舞われるのね」
「お姉様に似てるんじゃないかな。ちょっとだけ」
「前王のこと?」
「今日、命日なんだ。ごめん、リゼット。……先に眠っていてくれない?」
「──……」
「海の向こうへ祈りに、出たいから」
「そう……」
緩く結び目の出来ていた二人の手と手が、ほどけていった。
リゼットは、イルヴァと寄り添ってくるまっていた毛布を握って、目蓋を閉じる。
ややあって、衣擦れの音を連れて、優しい気配が離れていった。