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引き裂かれたroyaume
第4章 霞んでいく過去(前)
リゼットの側に、イルヴァが歩み寄ってきた。
「やばいね」
「ええ……」
「ベネシー共和国には空軍がある。リテスキュティージ、とっくに攻め入られてるかも」
「どうすれば……」
「リゼットが悩むことじゃないよ」
「でも」
「援軍は陛下も予想されてなかったはず。もし目当ての島が手に入らなくたって、いくらあの人でも、リゼットを裏切り者扱いしないよ」
「──……」
「…………」
リゼットのウエストに、イルヴァの腕が絡みついてきた。
優しいだけの力にすっと引き寄せられたその瞬間、草むらが、ざわっと動いた。
「何っ?!」
ぴょこっと顔を出したのは、野生動物ではない。人間の男だ。
「リゼット」
リゼットは、イルヴァに庇われるようにして、その肩越しに男を見つめる。
黒い髪に碧い双眸、そしてほんのり日焼けした肌は、それでも黄色人種より淡い。
「貴様が陣営責任者か」
「リゼット・バシュレ……リテスキュティージ西部軍隊員です」
「王妃様が貴様と面会なさりたいと仰せだ」
「何故?」
「会談の流れ次第では、血の一滴も流さず、ご所望の島をくれてやる……と」
「…──っ」
「リゼット、罠かも」
「罠かどうかは自分の目で確かめろ。でなければ、貴様らの故郷は襲撃を喰らうと思え」
「──……」
リゼットは、男から招待状を受け取った。
封に、容易に模作出来なかろう複雑な、ベネシー共和国王家の紋章の入ったシーリングワックスが捺してあった。
第4章 霞んでいく過去(前)─完─