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引き裂かれたroyaume
第5章 霞んでいく過去(後)
* * * * * * *
ベネシー共和国の王の居城は、鬱蒼とした林に囲われた、石造りの壮大な城だ。
リゼットはイルヴァを伴って、夜の帳が仄かな月明かりに薄れる頃、招待状に指定してあった通りのルートを辿って門をくぐった。そうして見張り番の一人に案内されて、王妃専用の謁見室に案内された。
リゼットは、イルヴァと控えの間で別れた。
「いらっしゃい、リゼット。貴女のことは近衛兵から聞いているわ。招待を受けてくれて光栄よ。わたくしはベネシー共和国王ビルド・ハートンの第一夫人、サリア・ハートン。お見知りおきを」
「今夜はお招き有り難うございます」
「どうぞ、おかけになって?」
リゼットは、サリアの向かい側のソファに腰を下ろした。
そして、改めて、目前の王妃を観察する。
黒い髪に黒いドレス、それとは対照的な白い素肌はもっちりした張りがある。何より目を引かれるのは、切れ長の穏やかな目許だ。年のほどは、見た感じ、三十代半ばといったところか。唇に、赤みがかったオレンジのルージュが引かれてあった。
「吃驚したわ。いずれこういうことになる予想はあったけれど、リテスキュティージは、先日、東西の戦を終えたばかり。西部の王は、随分と精力的なのね」
「西部は、あの戦でそれほど打撃を受けておりませんから」
「ええ、海外新聞で読んだわ。ねぇ、リゼット?単刀直入に話すわね。もうお分かりの通り、ベネシー共和国はシュプリーン王国の援助を得ることになったの。現実の兵力から考えて、この戦、リテスキュティージは確実に破れる」
「──……」
「ウチは、はっきり言って、ヤーデルードの欲しているあの島は、あってもなくても構わないの」
「どういう意味ですか?」
「沖の真ん中にある鉱山の島……確かにあれは、我がベネシー共和国の富の象徴。けれど、この国は農作物と工業に力を入れていて、あの島は云わば飾りなの。そのくせ、リテスキュティージのように、あの島欲しさに侵攻してくる国が絶えない。戦が起きればそれだけ国が痛手を負う。それなら、いっそ手放してしまった方が、将来的に有益だわ」