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引き裂かれたroyaume
第5章 霞んでいく過去(後)
* * * * * * *
エメは、ジュリーに指示された宿泊室を訪ねていった。
この宿一番のパトロンだという客の入った部屋は、俗に言うスイートルームだ。
扉を開けるなり高貴な匂いがたなびいてきた。薄暗がりでも、贅沢な造りは明白だ。
繊細なレースのかかった天蓋の寝台に、やはりこの部屋に相応しい風貌の女性が腰かけていた。
「ご婦人方に評判の従業員って、貴女だったの?」
女性の腰がすっと上がった。そのウエストから広がる長いドレスが、たゆたった。
厚化粧のかんばせに、太いカールを描いたブロンドの髪、女性のくりりとした双眸は、いかにも貴族らしい、享楽と自信に満ち溢れていた。年のほどは、見たところ四十代後半といったところか。
「あたしを知ってるの?」
「西部の貴族が皆、遊び呆けていると思わないで。私、ニュースには敏感なの。エメ・カントルーヴ……副官にフラれたエリシュタリヴ・オルレの隊長でしょ?」
「──……」
「ふふっ、ごめんなさい。私はアンリ・ルマンド。身分は侯爵。ヤーデルードの王様とは仲良しよ」
アンリの腕が伸びてきた。
エメの肩へ、それから二の腕、手首へと、扇情的な指先が滑っていく。
「本当に女だったのね」
「ニュースで男とでも報じられていた?」
「いいえ。ただ西部にはいないタイプだから。それに軍人だからって、私は、お姫様のような女を知っている」
「西部にも、従軍している女性がいるんだ?」
「貴女のよく知っている令嬢よ。彼女、上玉ね。オリアーヌ陛下のパーティーで、ご婦人方の大人気だったわ」
「…──っ、リゼットに会ったのか?!」
エメの腕がアンリの片手に捕らわれた。袖越しに握力が食い込んできて、その細腕から想像つかない力で、寝台に身体を投げつけられた。
アンリが馬乗りになってきた。
唇をしっとりした指の腹で塞がれて、すかさず顔を逸らせる。