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引き裂かれたroyaume
第5章 霞んでいく過去(後)

「王室付きの軍隊の人間も、大したことないのね。こんなに容易く捕まえられるなんて」

「っ……」

 顎を掴まれて、顔をアンリに向かされた。

「私の唇、リゼットの味を知ってるの。彼女がお酒を飲ませくれて」

「何だって……?」

「この指は」

 エメのまとうシャツの胸元に、アンリの指先が伝ってきた。

 胸と胸の谷間を、強くなぞられていく。

「リゼットの膣内(なか)を探って、泣かせて、喘がせた」

「…──!!」

「エメ?リゼットをどうしても抱きたいなら、オリアーヌ陛下にとり入って、お願いした方が賢明よ」

「リゼットは……」

「今は、ご存じの通り凱旋中。軍のお仕事のない時は、オリアーヌ陛下のお気に入りの玩具。陛下は、果たして一国の王として、リゼットを欲しがったのかしら。私は昔からあの人を知っているから、個人的な恨みが絡んでいる気がしてならないの」

「…………」

 ダメだ。身体に力が入らない。仄かな明かりはあるのに、視界が、はっきりしない。

 この目前の派手な女性の口にしていることが、全く理解出来ない。呑み込めない。

「──……」

 エメは、アンリの身体を押し返す。

「離れろ」

「え?」

「リゼットをもてあそんだ手で、あたしに触れるな」

 誰より純粋で、誰より気高い人の心身をなぶって、辱しめて、ずたずたにした。そんな指に触れられたくない。
 愛してやまないキスをくれるあの唇を、享楽の道具にした唇から、どんな言葉も寄越されたくない。

「──……」

 ふっ、と、嘲笑のトーンにも聞こえる声が降りかかってきた。

 唇が、とてつもなく柔らかな濡れたもので塞がれる。

 避けても避けても執拗なキスが追いかけてきて、今度こそ寝台に組み敷かれた。唇を無理矢理こじ開けられる。

「ん、ふぁっ……」

 淫猥な水音が濃厚なキスの間を往き来する。

 そして、暫し野生の如くじゃれ合っていた舌と舌が、言葉を交わせる程度に離れていった。

 エメは、口許に付着したアンリの唾液の湿っぽさにぞっとしながら、それを拭うための両手の自由も奪われていた。
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