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引き裂かれたroyaume
第5章 霞んでいく過去(後)
「おとなしくなさい。私は世間話をしに来たのではないの。リゼットと、……そして貴女。あのエリシュタリヴ・オルレの幹部を二人とも抱いたなんて事実を持てば、三年は、社交界でのお話のネタに困らなくて良くなるわ」
「あたしを思い通りにしたいだなんて、命のいらない人間のほざくことだ」
「強気なところ、リゼットは貴女に似たのかしら。だけど貴女は、あの娘より美しい。リゼットは、どこの生まれか分からないような姿をしていた。だけど貴女は生まれながらのリテスキュティージの貴族……血統書付きなのね」
アンリの片手を振り払って、襟元に伸びてきたそれを制する。
「お前にリゼットの何が──…うぐっ」
エメは、アンリの自分を打っていった手のひらを見つめる。
「思い上がるのはおよしなさい。貴女は敗戦国の戦士。そして私は今夜貴女を買った、西部の貴族。私が女の快楽を刻み込んであげる。あの娘をよがらせた、この指で……」
「んっ、やめ……あっ」
首筋にキスが降ってきて、器用にボタンが外されていく。
数多の女を抱いただけでも耐え難かった。その上、この悪夢は?
罪は、エリシュタリヴ・オルレの隊長として、敗戦という失態を犯したことではない。多くの命を犠牲にしたことではない。
最初で最後の愛した人を、見捨てたところにあった。
気付いていた。リゼットがどんな目に遭わされているか、どんな苦しみを強いられているか、現実は、想像を遥かに超えていた。
エメは、はだけたシャツの裾を握って、アンリを見上げる。
「好きに……しろ……」
「現実を思い知る気になった?」
「胸が……張り裂けそうだった。身体ごとそうなってしまえば良いのに……」
それが無理なら、リゼットの味わった苦痛を、屈辱を、ひとひらでもこの身に映したい。
これが贖罪になるはずない。裏切りが深くなるだけだ。
それでも、自ら傷付かなければ、今にどうにかなってしまう。
「リゼット……」
身体にのしかかっていた重みが、離れていった。
「貴女が私のために脱ぐところ、見ていてあげるわ。そして私にひざまずいて、詫びなさい。私は貴女に他の女の話ばかり聞かされて、恥をかいたのだから」
「…………」
エメの傍らで、アンリが脚を組み直した。
こんなことになるなら、リゼットに、もっと触れさせておけば良かった。