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引き裂かれたroyaume
第5章 霞んでいく過去(後)
リテスキュティージ西部の前王ソフィルス・ヤーデルードは、強きをくじき弱気を助ける、さしずめこの世に降臨してきた女神だったという。貴族はもちろん、国民の誰からも慕われていて、そして軍人並みにたくましく、頼もしい王だったという。
ソフィルスの十七年前の死因は、神経症だ。
身分違いの恋、そして恋人との間に生まれた娘を手離さねばならない事情に迫られて、ショックが続いていたという。
ソフィルスは、愛娘と半年間過ごした末、その父親に一切の親権を委ねに行った。その時、付き添った貴族らの中に、イルヴァの両親もいた。ソフィルスは、一人になっても、王の政務をこなしながら、いつか愛娘が戻ってくる未来を妄想して、城に姫君のための部屋をつくった。そこにドレスや宝石を揃えていった。だが、次第に心身が衰弱していって、ある日、命尽きたという。
それが、リゼットがイルヴァに聞かされた昔話だ。
リゼットは、陣営に帰り着くと、天幕にこもって、血の染みた洋服と下着を脱いだ。そしてイルヴァに背を向けて、城から携えてきた軟膏を塗ってもらっていた。
「んっ……ぁっ……」
「じっとして、リゼット。真面目に薬を塗らなくちゃ、傷が残るよ」
「分かってるわ……あん、ダメ……」
脇に、鎖骨に、アンダーバストに、腹に腿、イルヴァの手が、あちこちをまさぐってくる。
最近流行っているらしい、エステサロンなら、こんな施術はごく当然のことという。一糸まとわぬ姿になって、全身に、手のひらでオイルやらハーブのエキスやらを浸透させられる。
リゼットは、初めて、世の令嬢達の苦労を思い知っていた。
「はぁっ……」
ようやっと、鞭で打たれた跡の全てに、軟膏が行き渡った。
「──……」
上体に、イルヴァの腕がまとわりついてきた。薬を落とすまいとしてか、その知からは焦れったいほどふんわりしている。
鼓動の音が、この細い手首に伝ってしまうのではないかと、気が気でなくなる。
リゼットは、肩にかかった自分のものより色素の強いブロンドの髪の質感に、頬の柔らかさに、酔いしれる。とろけそうになっていた。