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引き裂かれたroyaume
第5章 霞んでいく過去(後)
「服、着せないのは、薬を馴染ませるためだから」
「……それ、だけ?」
「それだけ。ほんとに傷に障るから」
「…………」
リゼットは、膨らんでゆく悲しみを飲み込んで、拳を握る。
泣いて鳴いて、とても酷いことをされたいのに、今朝に限ってお預けか。
「……リゼット」
「なぁに?」
「私の言ったこと、真に受けちゃダメだよ。……リゼットは、女に囲われて幸せになれるような、か弱いお嬢様じゃない。大好きな人とは、支え合って、自分の力で立っていられるお姫様」
「何、言い出すの……急に。私に大好きな人なんて──…」
「悔しかった」
「…………」
「リゼットが強くなれたのも、綺麗なのも、まっすぐなのも、全部、東部にいるあの人と一緒にいたからなんだって思うと、悔しかった。だって私は、東西のあの戦いで、貴女をずっと見ていたから。ずっと見ていて、惹かれていたから」
「…──!!」
「こっそり覗いていた戦場で、貴女だけ、欲しいと思った。あんな生き生きした顔をさせられるのも、守れるのも、何で私じゃないんだろうって、……敵に対してこんな風に思ってたなんて、陛下に知られていたら、謀反で叱られていたかな」
イルヴァの穏やかなソプラノに、笑可しそうなトーンが混ざった。
リゼットは、首を回してイルヴァに振り向く。
吸い込まれそうな碧眼は、さしずめブルートパーズだ。たおやかで、優しげで、瑞々しい気品に満ちた面立ちは、まるでずっと眺めていたいガラス細工だ。
「──……」
「ん……」
二人の唇が、どちらからともなく重なった。
角度を変えながら、恋を覚えたばかりの少女みたいな口づけを交わして、次第に貪欲になってゆく。