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引き裂かれたroyaume
第5章 霞んでいく過去(後)
* * * * * * *
エメが自分の客室の扉を開けると、真っ正面の窓ガラスが割れた。
「…──っ?!」
数人の男の手が、窓枠に残ったガラスの破片を取り除いていく。
「お迎えに上がりました。隊長……」
吹きさらしになった窓から入ってきたのは、見知ったエリシュタリヴ・オルレの隊員達だ。
「お前達は……何故……」
「我々はアルフリダ様のご命令を受けて、二日前から隊長をお探ししておりました。万が一の懸念から始めたことでしたが、残念ながら、無駄ではなかったようです。この宿のオーナーに、暗がりの中、偽の逮捕状を見せました。喉元に剣を突きつけたところ、震え上がって自供しました」
「よくぞご無事で……。エメ様、馬車を待たせております。タパニの部屋はどこですか?」
「待て……っ、あたしは……」
こんな風に、以前と同じ態度で接せられる資格はない。
リゼットの愛に背いた。それは、この誠実な部下達の思いを裏切ったことにも繋がる。
「お前達との関わりは……、終わった」
「──……。フロリナ様がお待ちです」
「何?!」
「申し訳ありません!陛下のご命令でしたので!フロリナ様をお連れするよう申しつかり、我々に否と答える術はありませんでした」
「…………」
アルフリダに、ここまで見越されていたということか。
エメは、あの妹同然の居候の令嬢がいては、こんな敵地にいつまでも留まっていられない。
「恐れ入りますが、本当にお急ぎ下さい」
「家で何かあったのか?」
「いいえ。東部の危機です」
「え……?」
「出動です。今日未明、リテスキュティージ西部がベネシー共和国から取り上げた島から、東部のものと見られる遺跡が発掘されました。調査員によりますと、あすこは昔、東部の血の混じった先住民がいた形跡があるようです」
「島の所有権を巡って、一触即発の状態です。明日にも、東部は西部に攻め入ります」
「…──っ!!……」
東西の和睦は、結局、一ヶ月も続かなかったというわけか。
「……リゼットは?」
「お身体が使い物になるならば、オリアーヌは、あの方に出動させるでしょう」
「──……」
エメは、隊員達の蒼白な顔から、島の話が自分を連れ戻すための虚言でないと、十分すぎるほど覚っていた。
第5章 霞んでいく過去(後)─完─