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引き裂かれたroyaume
第6章 壊された記憶

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 微睡みの中に蘇ってくる夢は、いつでもかなしい記憶ばかりだ。

 リゼットは東部にいた頃、エメとよく互いを屋敷に招き合っていた。

 エメの家族は明るく気さくだ。リゼットにまつわる貴族達の心ない噂話を、誰も気に留めている風はなかった。屋敷はメイド達の気配りが行き届いていた。唯一、エメの母親の知人の娘、行儀見習いのために居候していたフロリナのぎこちない態度が気になっていたものだが、聞けばただ内気なだけだという。
 一方、リゼットの生家は、年中、喪中よろしく湿っぽかった。いつでも晴れない顔の母親と、美人だが口数少ない姉、それから二人のメイド達は、エメを相応の地位の客人らしくもてなしたが、それだけだった。

 リゼットは、母達が好きだった。だが、家族間の愛情は、あくまで一方通行だった。

 リテスキュティージ東部は平和だった。軍人でも、明日を怖れる必要がない。

 リゼットは、だのに怖かった。

 バシュレ家は、家長が投獄されて以来、反逆者の一族という異名を被っていた。リゼットの唯一の誇り、エリシュタリヴ・オルレの副官という肩書きも、エメの意向だけで保証されるものではない、脆いものだ。
 否、世間的な栄誉はいらない。肉親の愛も諦めていた。
 リゼットは、ただ、エメと迎えられる朝も、一度として当たり前と感じられた試しはなかったのだ。

 永遠の夜が続けば良い。エメと、世界にたった二人きり、誰もいない暗闇に閉じ込められてしまえば良いのに。

 何度、身勝手な空想に耽ったことか。

 忌まわしい朝陽はそれでも昇る。

 あの朝は、リゼットがエメを屋敷に招いて一晩過ごした後だった。

 目が覚めて、リゼットの世界を一番に彩ってくれたものは、一足先に起きて寝顔を見つめてくれていた、エメの顔だ。
 おはよ、と、囁き合ってキスをして、とりとめなくじゃれ合って、指を絡める。二人の体温を覚えたシーツは、名残惜しいほどあたたかだった。それだけで、その日の不安は跡形もなく消え去った。

 リゼットは、エメから一瞬でも離れたがらない自分の指先を鞭打って、起き抜けた。

 洗面所の鏡に映った自分の姿を見た瞬間、再び恐怖が押し寄せてきた。
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