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引き裂かれたroyaume
第6章 壊された記憶

『っ……』

 色素の強いホワイトブロンドのロングヘアに、はっきりした目鼻立ち、さぞ気位が高いのだろうと影で揶揄されてきた碧眼は、確かに、東部の人間にしては強すぎる光を湛えていた。

 この土地の人間にはありえない特徴ばかりが揃っていた。

『いやぁああ……っ』

 発作に駆り立てられて剃刀を握った。

 物凄い目眩に襲われて、視界が眩んだ。身体ががくっとくずおれて、意識の片隅で、小さな刃物が床に転げ落ちていく音が鳴った。

『リゼット!!』

『いやっ、いや……はぁっ、……いやぁああっ……』

『リゼット落ち着けっ』

 誰にも必要とされないで生きてきた。むしろ疎んじられて生きてきた。

 リゼットは、何が何だか分からなくなる。分別のつけられない子供が親とはぐれた如くの恐慌状態に陥っていた。

 孤独に慣れているなんて、強がりだ。未だ居場所のない現実を、受け入れられない。

『リゼット!!』

『はぁっ、……はぁっ……。…──エメ?』

 軋まんばかりに両腕を掴まれて、どんな悪夢の影に絡め捕られても、たった一人になれないくらい、熱い眼差しに包まれていた。

 リゼットがはっとエメを見ると、とても心配そうな双眸が、そこにはあった。

『……私……』

 リゼットは自分が情けなくなる。これだけ真摯に見つめられても、心から、この愛する人を信じられない自分がいる。

 地位も身分も人望もあって、誰からも愛される器量がある。
 そんなエメに、リゼットの暗い胸の内は分からない。分かられない方が良い。

 リゼットは、エメの腕に抱かれながら、震えていた。
 ごめんなさい、有り難う、心の中でいくら言葉にしても足りない思いを吐き出す代わりに、ここにあるぬくもりに甘えて、背中を撫でさすってくれる手のひらにすがる。
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