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引き裂かれたroyaume
第6章 壊された記憶

『怖い夢でも、見た?』

『そうかも知れない』

『言ってくれれば、交替だなんて言わないで、一緒に顔洗いに来たのに。リゼットってこういうとこ可愛いんだから』

『──……』

 また、何も気付かない振りをしてくれている。

 リゼットは、いつだってエメがわざと騙されていてくれるのに感謝する。

『リゼット』

『エメ……私は、どうして……』

 貴女に優しくなんてしてもらえるの?

 リゼットは、声にならない疑問を飲み込んで、エメの襟元をやんわり握った。

『リゼットが、自分を愛せなくたって、それは君の個性だと思う。あたしは、リゼットのそういう健気なとこ好き。でも、……』

『──……』

 すぅっ、と、剃刀がどけられていく音がした。

『憎まないで。一人で、頑張ってばかりいないで。……リゼットが笑えなかった十七年間を、あたしが、一生かけて埋め合わせるから。否、それ以上に、きっとリゼットが楽しくいられる毎日をあげる』

『…………』

『そんなことありえないけど、万が一世界中の皆が君を置き去りにしても、あたしは離さない。リゼットが、あたしに側にいて良いって言ってくれてる限り、ううん、言ってくれなくなったって、ずっとずっと君だけの味方でいるから』

『──……』

 ああ、エメのこんな言葉に、態度に、きっと世の令嬢達も惚れ込むのだ。

 されどリゼット自身はどうあっても、よりによってこんな完璧な人に、本気で愛されるだけの理由を持ち合わせていない。

 リゼットは、冷めきった思いで今の自分達を観察していた。

 そうでもしていなければ、涙が頬を伝いそうだった。
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