この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
引き裂かれたroyaume
第6章 壊された記憶
『怖い夢でも、見た?』
『そうかも知れない』
『言ってくれれば、交替だなんて言わないで、一緒に顔洗いに来たのに。リゼットってこういうとこ可愛いんだから』
『──……』
また、何も気付かない振りをしてくれている。
リゼットは、いつだってエメがわざと騙されていてくれるのに感謝する。
『リゼット』
『エメ……私は、どうして……』
貴女に優しくなんてしてもらえるの?
リゼットは、声にならない疑問を飲み込んで、エメの襟元をやんわり握った。
『リゼットが、自分を愛せなくたって、それは君の個性だと思う。あたしは、リゼットのそういう健気なとこ好き。でも、……』
『──……』
すぅっ、と、剃刀がどけられていく音がした。
『憎まないで。一人で、頑張ってばかりいないで。……リゼットが笑えなかった十七年間を、あたしが、一生かけて埋め合わせるから。否、それ以上に、きっとリゼットが楽しくいられる毎日をあげる』
『…………』
『そんなことありえないけど、万が一世界中の皆が君を置き去りにしても、あたしは離さない。リゼットが、あたしに側にいて良いって言ってくれてる限り、ううん、言ってくれなくなったって、ずっとずっと君だけの味方でいるから』
『──……』
ああ、エメのこんな言葉に、態度に、きっと世の令嬢達も惚れ込むのだ。
されどリゼット自身はどうあっても、よりによってこんな完璧な人に、本気で愛されるだけの理由を持ち合わせていない。
リゼットは、冷めきった思いで今の自分達を観察していた。
そうでもしていなければ、涙が頬を伝いそうだった。