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引き裂かれたroyaume
第6章 壊された記憶
夢の中で耳にしていた澄んだアルトの声とは違う。されど優しくて懐かしい、崇高な響きを湛えた声に呼ばれて、胸奥にぽつんと生まれた小さな穴が広がっていった。
ああ、やはり、今見ていたのは過ぎ去っていった幻影だった。
リゼットは、拡大してゆく胸奥の穴が、取り戻せないあの頃なのだと覚っては、目覚めるのも億劫になる。
それなのに、優しいソプラノが絶え間なく耳をくすぐってくる。たおやかな力加減の指先が、肩を揺さぶってくる。
「…──ト。……リゼット」
「ん……」
「着いたよ。リゼット、頑張って起きて」
「ん、んんぅ……」
「…………」
「…──、……。…──っ?!」
突然、唇が何かに塞がれた。
リゼットは、飛び上がらんばかりの勢いで、目を開けた。
寝起き特有の眩しい視界の片隅に、すっと離れていったシルエットが触れた。
ブロンドのミディアムヘアに碧翠の双眸、貴族の令嬢らしからぬパンツスタイルがしっくり馴染んだその美女は、夢の中で包んでくれていたあの軍人ではない。
「イルヴァ……」
「おはよ。着いたよ。爆睡だったね。お姫様はキスで目覚めるって本当だったんだ」
「──……」
リゼットは、ブランケットの端を握って、辺りを見回す。
そうだ。船に乗っていたのだ。
今朝、ベネシー共和国を出立した船が、リテスキュティージ西部に帰り着いたのだ。
リゼットが船着き場を覗くと、そこには、既に家族や知人らと再会を喜び合う隊員達の姿があった。