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引き裂かれたroyaume
第6章 壊された記憶

「──……」

「リゼット」

「ごめ……ごめん、わた……私……」

「ごめんね、リゼット。黙ってて」

「──……」

「九年前、十六の春、城に上がった。半年くらいはオリアーヌ様の身の回りの世話をしていて、個人的にお会いするようになったのは、年の暮れ。……私、誰かに守って欲しかった。陛下の気持ちに支えられてて、一緒にいて安心出来た。何年も、幸せな時が続いていて……先日、あの東西の戦いが起きた。貴女を思い出すことになった」

「思い出す……?」

「私がリゼットの守り役に選んでもらったのは、私の屍を越えてまで、貴女に手を出そうなんて考える輩はいないだろうから。私は、未だオリアーヌ様のお側にいた人間だって心証を、周りに与えているみたい」

「…………」

 リゼットの右手が優しい手のひらに包み込まれて、生傷に柔らかな質感が触れた。

 ちらと黒目を動かすと、案の定、イルヴァの唇にやけに赤いものが付着していた。

「陛下。リゼットが誘ってきたんじゃありません。私が、嫌がる彼女に強要しました」

「正気で言ってるの?」

「陛下もご存じの通りです。リゼットは綺麗事しか口にしません。いいえ、綺麗事じゃなくて、本心です。そして、口先だけじゃありません。リゼットには、心に決めた女性がいます。……私が初めて抱こうとした時も、手のつけようのないほど抵抗してきました。全身を拘束して、どれだけ痛めつけても、彼女は思い通りに出来ません。私はそれでも、心が無理なら身体だけでも欲しかった。今朝だって……。リゼットを助けて下さい。これが私の本心です」

「イルヴァは、私を愛してるって……」

「陛下と私の関係は、終わりました。そう仰ったのは陛下です。当分は捕虜の相手をするから、私に構っていられない……と。私はリゼットがこの城に入ったあの日、貴女の持ち物ではなくなりました」

「…………」

 ふっと、オリアーヌに不気味な微笑が滲んだ。
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