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第13章 おでんデート
さっきと同じところにリョウは立っていた。
稜がおずおずと現れると、心底嬉しそうな顔をする。

「はい」

満面の笑みで、リョウが左手を差し出す。

「?」

「右手」

「??」

「早く」

リョウの左手に、稜は右手を重ねる。
やはりすごく冷たい。

「手、温かっ」

稜の手は緊張で汗ばんでいた。
どう返したらいいか迷っていると、リョウは手を下ろして歩き始めた。

「はい。こっちー」

「えっ。ちょっと」

「すぐそこの駅前の1本入ったとこにある、『なかやま』って知ってます?」

「...知らない」

「おでんが美味しいんだー」

肩が触れるぐらい近づいて、ゆっくり歩く。

なんで、急に誘ってきたのか言わないつもりだ。

デート、じゃないだろう。おでんだし。屋台かな?

お店に着くと、赤い提灯の昔ながらの居酒屋といった佇まいだ。中は、カウンターがほとんどで、10人入ればいっぱいだろう。ひとつだけ奥に4人掛けが見える。

「いらっしゃい!」

店内に入ると、店長らしき年配のおっちゃんと、その奥さんらしき2人に元気良く迎えられる。夫婦でやっているカンジだ。コートを脱ぐと、奥さんが壁際のハンガーを差し出してくれ、そこへかけてくれる。
そして、言われるがまま、カウンターに並んで座る。
奥さんに温かいおしぼりを渡される。

「何にしますか?」

お店は平日だというのに混んでいて、なんとか隅っこに座れたが、席と席がとても狭い。
隣のサラリーマンの集団が賑やかなので、すぐ隣に座るリョウの声すら通らない。

「何飲みますか?」

もう1度、今度は耳元で話しかけられて、稜はぞくっとする。片手は稜の座る椅子の背もたれにあり、後ろから半ば抱きしめられているかのようなカタチだ。

「えーっと、ウーロン茶」

「はい?」

「ウーロン茶!」

仕方ないので、リョウの耳元に話しかける。
リョウが伸ばした首筋がとてもキレイで、思わず見とれる。いつものあの匂いもして、頭がぼうっとする。

話を続けるのか、リョウはその体勢を変えようとしない。

「飲まないの?」

「今日はいい。明日もあるし」

昨日調子が悪かったのもある。
ただでさえ心臓が激しく脈を打つのに、これ以上酷使したら死んでしまう。

「おでん、適当に頼むね」

「うん」

耳元で話していたリョウが、やっと離れた。
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