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加虐の皇子と愛玩ドール
第6章 淫虐連鎖
* * * * * * *
「……と、いうことがあったわけ」
あれから数時間が経った。
みおりは、郊外にある行きつけのレズビアンバー『Gemini』に顔を出していた。
小粒の豆電球が天井に星空を織り成す、大理石がフロア一面を覆った店内は、青暗い空間を観葉植物の緑がほんのり明るめる。しめやかに流れるオフボーカルのBGMに、時折、耳に入ってくる客達の談笑、カウンターやテーブル席は、ほど好い間隔が置かれてあって、立地こそ辺鄙な店だが、ここは知る者ぞ知る隠れ家的な店だった。
みおりはカウンターに落ち着いて、今夜の一杯目を口にしていた。そして、『Gemini』の店主の宍倉雅音、つまり友人である目前の美人に、夕方の一部終始を語り聞かせていたところだ。
「良いじゃない、営業がおじゃんになったくらいで、気にしなくても」
「……だけどさぁ」
からん、と、手のひらの中でグラスと氷が打ち合った。
「初めてなんだよ。落とせなかったの」
「──……。言って良い?」
「どうぞ」
「今まで百パー契約とれていたのも、予算を理由に追い返されそうになった時点で、実演に走った貴女がすごい」
「何それ。私が非常識って言いたいみたいじゃん」
「実際、非常識じゃない」
「…………」
みおりの脳裏に、泉美達と別れた後、『Gemini』に来るよりほんの少し前のことが蘇る。
あの営業は、元を辿れば、みおりの仕事ではなかった。
みおりはアダルトグッズの製造販売メーカーに務めているが、営業はあくまで助っ人として請け負う仕事だ。それも特定の社員の頼みでなければ引き受けない。
特定の社員の一人、すなわち桐原叶苗(きりはらかなえ)に、いつものように戦勝報告をすべく待ち合わせのカフェに向かうはずだった。だのに、みおりが彼女に返却した契約書は、真っ新な白紙の状態だったのだ。