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加虐の皇子と愛玩ドール
第7章 耽溺被虐
「特定のパートナーは持たない。だけど貴女に抱かれた女性は、大半が被虐の悦びを覚えるし……頼めば破瓜は最低限の痛みにとどめてくれる。独自の営業法による売り上げ実績は、営業部に匹敵している。……貴女を頼って、私は隆君との関係を続けていられた。けど、……」
「さすがにディルドをぶっ込まれた時は泣きかけたって?」
「ふふっ、それもある」
けど、と、与子の伏せた目蓋に湯気が上った。
「私は隆君の綺麗なとこだしか見てなかったんじゃないかって、考えるようになっちゃった。貴女と、もっと早く会っていたらって」
「良いのかよ。半ば政略結婚だったって言っても、あいつとは幼馴染みで上手くやってきたんだろう?」
「あの人にSMの趣味があるなら、私には浮気癖がある。……快楽なんて、そういうものじゃない?」
みおりは更けてゆく夜の中で、与子との今日の再会の瞬間を振り返る。
定時上がりのいつもの帰路、夕暮れのあれは、本当に偶然だったのか?
どうでも良い。この令嬢の顔をした淫魔の説く通り、快楽に道理も理由もいらない。
* * * * * * *
与子の自宅で一夜を過ごした翌日、みおりは行きつけのレズビアンバー「Gemini」を訪ねた。
四つ年上の友人の経営する小洒落たバーは、郊外という立地が不利になってか、その客入りは、週末でもばらつきがある。
大理石のフロアは、どこかで聴き馴染みのあるインストゥルメンタルがしめやかに流れていて、濃厚な緑に静かな生命力を湛えた観葉植物が、群青色の空間をいくらか明るく照らし出す、天井に散らばる星屑の光を、あちこちから吸い込んでいる。
広々した間取りのここは、されど今夜も、ざっと半分以上の席が空いていた。
みおりは、カウンターから二番目に近い四人がけのテーブル席にいた。
向かい合わせてあるソファの内一方に、みおりとこの店の店主の妹、宍倉ほづみが落ち着いて、そしてもう一方に、チャコールグレーのライダース風コートに薔薇園と廃墟のシルエットがプリントされたボストンバッグ、それからいびつな白いハートの斑が入った薄ピンクのフェイクファーコートと大きなリボンの付いたティーカップ型ショルダーバッグ、知る人ぞ知る洋菓子メーカーの紙袋が預けてあった。
みおりはほづみと肩を並べて、とりとめない話題を交わしながら、週末の夕餉をとっていた。