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加虐の皇子と愛玩ドール
第7章 耽溺被虐

* * * * * * *

 雑然たる大都市は、日が沈んでも眠りにつく気配がない。
 それでも都心を少しばかり外れると、ネオンの街とは別世界と思えるような、素朴な町並みが続いている。

 みおりはほづみとホテルに戻ると、ふかふかの絨毯がシャンデリアの金色の光を取り込む通路を抜けて、大浴場に向かった。

 二人、室内浴場で存分に温まった後、ガラス戸の向こうの露天風呂に出た。

 大浴場は、この時間、貸しきっている。

 月明かりを浴びた緑に囲まれた黒い水面が、きらきら、幻想的な光の粒子を弾いていた。

「涼しくて気持ち良いですね。さっきまでコートを着ていても寒かったのに、タオル一枚でこんなにほかほかしているなんて、さすが健康ランドもどきのお風呂はひと味違います」

「さっきの生姜風呂が効いたのかもな。薔薇風呂が火曜限定だったのは残念だけど、風呂にこれだけエンタメ性を覚えたのは初めてだ」

「私もです。みおりさんが貸しきりにして下さらなかったら、お部屋ので済ませていたかも知れませんし」

「こういうとこ、苦手?」

「何もないのに人前で脱ぐのは」

「ふぅん。……意外」

 みおりは温泉独特の香りの上る浴槽から、タイルの段差に腰を預けて、静かな夜のとばりを眺める。

 遥か彼方の頭上を覆った漆黒をルチルクォーツの如く不明瞭に明るめる月か、完璧な腕前のマエストロの手がけたドールの贋作、どちらが優って白いのか。

 科学で証明出来かねるものを信じた試しはない。だが、ゆで玉子の匂いを聯想する湯煙に、如月にたゆたう清澄な風、光と闇が織り成すどこともつかない景色にとけ込んでいると、ともすれば夢とうつつの境目に迷い込んできた錯覚を得る。
 そしてみおりは、二ヶ月前の今頃まで、ほづみという存在すら知らなかった。こうして卑猥で高貴なドールと肩を並べていると、ふと、あやかしか何かの化身ではないかと疑る。
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